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2006年6月のdiary

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2006.6.6 /『かくて災厄の旅ははじまる トワイライト・トパァズ1』
2006.6.8 /『最後の封印 エネアドの3つの枝』
2006.6.18 /『花の魔法、白のドラゴン』
2006.6.23 /『神を喰らう狼』
2006.6.25 /『嘆きの肖像画 英国妖異譚2』
2006.6.29 /『狼と香辛料』
 2006.6.29(木)

 支倉凍砂狼と香辛料(メディアワークス電撃文庫.2006.329p.590円+税)[Amazon][bk-1]読了。中世ヨーロッパ風異世界商人ファンタジー。

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 独り立ちして七年目、二十五歳の行商人のロレンスは荷馬車で移動の途中、修道院で騎士に呼び止められた。騎士は付近で行われるという異教徒の祭りのために警戒しているらしい。ロレンスにはその祭りに心当たりがあったが、なにも教えずにその場を去った。たしかに付近では収穫期に豊穣の神の化身である狼を捕らえるという祭りを毎年おこなっている。だが、ただの収穫祝いと豊作祈願なのだ。祭りでにぎやかな村を通りすぎたその夜、ロレンスは荷台にとんでもない客を見つける。それは美しいが怪しい娘で、驚くべきことに狼の耳と尾をもっていた。呆然とするロレンスに、娘は自分が豊穣の神・賢狼ホロであると告げる。

 蠱惑的なのに媚びない美人狼にまるめこまれて道連れになった若き行商人の、めざせ金儲け、そのうちオレの店をかまえてやるぞな珍道中記。中世ヨーロッパ風の世界背景の中で、軍事活動をともなわない物の流通や経済活動を描いたライトノベルは初めて読んだ気がします。なんとなく、塩野七生の『海の都の物語 ヴェネツィア共和国の一千年』を思い出しましたです。うわ、なつかしい。

 経済活動という、じつに理性的なものが中心であるお話らしく、世界そのもののたたずまいもきちんとしつらえられたような、うわつきのない印象でした。
 騎士たちの派手で無駄な活躍の裏で、物事を本当に動かしていくのはこうした着実な利益を求めるひとびとなのかも、と思わされるお話でした。
 幻想はほとんどナシですが、生活感がたっぷりで、地に足がしっかりとくっついていて、なおかつ話のおさまるところに小さなマジックがあるような。こういうお話、けっこう好きです。

 頭を使って世の中を渡っていく主人公のお話を読みながら思ったのは、なんとなーく、むかしこういう話があったようななかったような……ということだったのですが、いまになってそれって『長靴をはいた猫』のことかなとか思ったのですが。うーん……やっぱり微妙かも。
 とにもかくにも、長靴ならぬ一張羅を着た狼が超魅力的な娘さん、というあたりがこの話のライトノベル的なポイントですね。
 なぜか花魁のような言葉をあやつる狼ホロの、自信たっぷりなのにふとしたはずみに孤独を感じさせる愛らしさと、そんなホロに振りまわされそうでなかなかされない、だけどやっぱりまわされてるようなロレンス君。
 けっこうしたたかで頼もしいけどまだ純粋さを失っていない若者は、今後お金持ちになって自分の店がもてるようになるのでしょうか。

 残念だったのはタイトルの種明かしでして、このお話、どうやら私が最初に連想したような東方への旅には繋がってゆかないようですね。勝手に期待していたので文句を言う筋合いではないのですが。でもやっぱり残念でした。

 余談。
 主人公の名前の字面から反射的に「SISの某」を思い浮かべてしまうお馬鹿な読者は、読むのを中断するたびに元の世界に戻るのにいちいち寄り道をしているような具合になって難儀でした。ことほどさように、あのマンガの人たちは私の中に根を張っている模様です(汗。

 2006.6.25(日)

 篠原美季嘆きの肖像画 英国妖異譚2(講談社X文庫ホワイトハート.2001.300p.590円+税)[Amazon][bk-1]読了。英国のパブリックスクールを舞台にしたミステリ風味の怪奇譚。シリーズ二作目。『英国妖異譚』のつづき。

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 赤子のいないゆりかごをみつめる母親の姿が描かれた、十九世紀末の絵画。赤子の泣き声とともに所有者が事故死するという呪われた作品の今度の搬送先は、サマーセットシャーにあるパブリックスクールだった。知り合いの古美術商との興味深い会談の帰り道、パブリックスクール、セント・ラファエロの生徒コリン・アシュレイは、おなじ学校のチャールズ・ハワードと乳飲み子を抱いた若い女との修羅場を目撃する。そして、セント・ラファエロでは、霊感を持つ生徒ユーリが絵画から放たれる不安定でゆがんだ気を感じとっていた。

 今回は妖精譚というよりも、怨念にからんだ怪奇譚でした。
 呪われた絵画と妖精の約束。べつべつと思えたふたつの要素が史実によって最後にひとつに結びあわされた……のだろうか。なるほどこうなったのかと思うとどうじに、それはちょっとむりやりかなという印象ももってしまった一冊。

 登場人物たちのスタンスがわかっているので、一巻目よりは話に入り込みやすかったです。もうすこし話を構成する要素がたがいに緊密に絡み合ってくれるといいんだけどな、と感じるのですが、そう思うのは私だけかもしれないです。

 じつは読んでいるときは普通に読んだ気がするんですけど、あらすじを書こうとしてかなり混乱してしまいました。内容をちゃんと理解しながら読んだのかと不安になったりしましたよ。

 いずれにしろ、私とは思考回路のかなり異なる人の作品だなということを感じます。だから読んでいてあれ、と意外に思うところが多いのかもしれないなーとか。

 最後には史実の重みが時の流れとともに印象に残りました。

 2006.6.23(金)

 榎田尤利神を喰らう狼(講談社X文庫ホワイトハート.2004.252p.580円+税)[Amazon][bk-1]読了。壊滅した地球を舞台に閉鎖された島で生活するクローンの少年の孤独と成長を描く、遠未来SF。シリーズの第一作。

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 ぼくは海を知ってる。でも、知らない。ぼくの世界では、波の音は聞こえても海そのものを見ることはできなかったから。ぼくはボーイと呼ばれていて、ぼくの世界にはぼくの世話をする女性キナと、ときおり訪れる若者フェンだけが存在している。十三歳のぼくよりずっと背が高く、肌が白く、美しくて賢いフェン。六年後にフェンのようになるのだと言われても、ぼくは信じられない。ぼくはフェンが大好きで、フェンのために生まれてきたことが嬉しかった。だけどフェンの言うことはときどきよくわからない。海の向こうにもっと広い世界があってたくさんの人が住んでいるなんて――そんなことを考えてはいけないのだと思っていた。あの夜、偶然外に出て海をこの眼で見、リトルという少女と出会うまでは。

 状況を、主人公の視点と感情に寄り添いながらていねいに描き出していく手つきがたいへん好ましかったです。なんとなくジュブナイルSFというか、少し前の少女小説、もしくはかつての少女マンガの雰囲気を感じました。うーんと、叙情的とでもいうのかな。どっぷりと感情移入して、主人公の境遇がどうなるのか、人間関係がどう変わっていくのかをはらはらしながら読んでしまう感じ。距離を置いてキャラクターを楽しむ話ではなくて、主人公の痛みをともに感じる小説。異なる世界を体験させてくれる小説だと思いました。

 設定はSFとしてはそんなに奇抜なものではないような気もしますけど、だからこそこれからの展開が気になります。うーん、これからどうなる? というわけでつづきも読みます。

 2006.6.18(日)

 ダイアナ・ウィン・ジョーンズ(田中薫子訳)花の魔法、白のドラゴン(徳間書店.2004.576p.2400円+税 Diana Wynne Jones "THE MERLIN CONSPIRACY",2003)[Amazon][bk-1]読了。人間と動物と魔法使いが大騒ぎの並行世界ファンタジー。

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 その世界のイングランドでは、王様は廷臣たちを連れて国中をぐるぐると巡りつづけている。〈王の巡り旅〉の一行には廷臣たちの子供もいて、宮廷付き「天気魔法使い」の父親を持つ少女ロディも、「大地の魔法使い」が母のグランドも生まれたときから毎日が旅暮らしだ。そんなある日、最高位の魔法使いであるマーリンが亡くなって、その後、ロディの父方の祖父ハイドが連れてきた若者が新たなマーリンに任命された。だが、〈巡り旅〉がウェールズ国境近くのヴェルモント城にやってきたとき、ロディとグランドは、城主のスペンサー卿とグランドの母シビルがマーリンを巻き込んで恐るべき陰謀を企てていることを知ってしまう。
 いっぽう、地球のイングランドでホラー作家の息子として暮らすニックは、父親の心酔するミステリ作家マクスウェル・ハイドに会うために出かけたロンドンのホテルで、人違いから突然別の世界に引きずり込まれてしまう。かつて異世界の皇帝の後継者として命を狙われたことがあったニックは、世界がたくさんあることは知っていた。だが、魔法の使えない自分がほんとうに異世界にいることが信じられず、夢見ごこちのまま状況に流されているうちにとんでもない窮地に陥っていく。

 たいへんに賑やかな話でした。
 主役がふたりいてダブルプロットでというだけでもフクザツなのに、設定の複雑なこと登場人物の多いことそれぞれに個性的なこと、さらには突拍子もない行動をすることで、始終てんやわんやの大騒ぎなのです。

 視点が固定していて視点人物の体験と心理をていねいに追いかけていくような小説とはまったく違っていて、どちらかというと客観的で、奇抜な状況に置かれたたくさんの登場人物による連鎖反応をそとから見て面白がるかんじでしょうか。ライトノベル的でもあるなと感じましたが、私はなんとなく三谷幸喜の作品と似ている気がしました。設定も奇抜なのですが、構成がすごくうまい。つづきの予想できない展開で、寄り道のし放題みたいだったのにいつのまにか収束しているんですよね。

 〈巡り旅〉とか、魔女とのであいと魔法の継承とか、ロディのおじいさんの本性とか、ユニークで魅力的な、わくわくするような魔法的アイテムとエピソードを惜しげもなくどんどん注ぎ込んでいくところもすごいなーと思いました。

 あまりにも手際がよすぎるのか、話だけを追いかけていると雰囲気的には日常が勝っているようなのもDWJらしいです。深読みをするとふおお、と感心するほど魔法的な仕掛けが張りめぐらされているんですけど、それに気づかない人、そんなことには興味のない人でも楽しく読めるエンターテイメント、なのだなあ。
 クライマックスは、ただ文章を読むだけでなく脳裏に映像を描いてみるとさらに盛りあがるような気がしました。

 個人的にはロディが受け継いだ花の魔法がすごく魅力的だった。このアイデアだけでもひとつお話ができそうだと思いましたよ。でも、これは映像でみせるのはちょっと難しいですね。

 それとヤギ! 今回はヤギが個人的に大当たりでした。
 ずっと疑問だったカバーイラストの謎が解けたときには、本気で笑い出しそうになりました。

 ところでこの話、先日東京創元社から出た『バビロンまでは何マイル 上』[Amazon][bk-1]、『バビロンまでは何マイル 下』[Amazon][bk-1]の「後日譚」であるらしいです。
 なんてこった、後の話を先に読んじゃったよ……。

 2006.6.8(木)

 樹川さとみ最後の封印 エネアドの3つの枝(集英社コバルト文庫.2006.280p.514円+税)[Amazon][bk-1]読了。軽快なテンポで描かれる、中世ヨーロッパ風異世界ロマンティックコメディーファンタジー三部作の最終巻。『女ぎらいの修練士 エネアドの3つの枝』のつづき。

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 地上の半分の女を無条件で愛せる男。そんな異名を持つ船乗りヒューリオンだったが、女たらしのかれにも苦手な女がひとりいた。謎に包まれたエネアドの治療師シーリアだ。慇懃無礼な美女はだれとも親しくせず、他人を寄せつけない。かれはそんなシーリアに反感を持っている。なのに、なぜなのだろう、かれは彼女が欲しいのだ。ある日見知らぬ老婆を助けたヒューリオンは、西の森の泉に行けばなくしたものともっとも欲しい恋が見つかると助言される。半信半疑で出かけた森の泉でヒューリオンが見つけたのは、ひとり悲痛な涙を流しつづけるシーリアの姿だった。

 みっつめはお堅い美女に迫るたらし男だった(笑。

 三部作の中ではこの話が一番幻想色が濃かったかなと思います。シーリアってそういう出自だったのですね。
 差別や偏見などけっこうシリアスな要素も含まれているのですが、深刻になりかけるとさっと足もとが取り払われる、絶妙のタイミングが何とも言えません。こういう話運びは『楽園の魔女たち』でも時々ありましたね。それがときどき物足りないと感じることもあったけど、このシリーズではかろやかさにつながっていい感じだったと思います。

 さくさくと読めて気楽に楽しめる、後味の良いシリーズでした。どの巻も単独で楽しめますが、ミシアやララのその後がちらりと出てくるのでやはり順番に読むのがベストかと。

 2006.6.6(火)

 佐々原史緒かくて災厄の旅ははじまる トワイライト・トパァズ1(エンターブレインファミ通文庫.2004.282p.640円+税)[Amazon][bk-1]読了。師匠のために困難に立ち向かう、元気な女の子の元気な異世界ファンタジーシリーズ第一巻。

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 身寄りのない少女トパァズは駆け出しの魔宝士で現在十五歳。幼い頃に『思慮の塔』の魔宝魔導師ルキウス・ディタリアの弟子となり、美形で有能だが浪費家の師匠のために生活費の確保に汲々とする日々を送っている。その日、魔宝石の換金に出かけたトパァズは、街中で突然燃えあがる魔導の火柱を目撃した。ひろがる火炎を食い止めようとしたトパァズに、正体不明の魔宝士が襲いかかる。相手の使用するのが禁止された属性魔導であることに気づいて驚愕するトパァズ。力量の差になぶり殺しにされそうになったとき、彼女を助けてくれたのは師匠のルキウスだった。ところが、トパァズがめざめたとき、かれは行方不明になっていた――なぜか服だけを残して。

 ヒロインの一人称についていくのにかなり苦労した一冊。
 あらためて見直してみると、設定や状況が台詞めいた文章の中に過不足なく組み込まれているのがわかるのですが、最初に読んだときには充満するエネルギーにはね飛ばされているような気分になりましてね。えーと、とにかく歳食ったなと、しみじみ思いましたことです。

 お話自体のことを言えば、魔宝石を使う魔宝の設定がおもしろいなあ、と思いました。一種の召喚魔法なんですけど、封じられているのが先人たる魔導師だったり、消耗品だったりするのとか。それと物語世界の設定はかなり緻密に造られている印象を受けました。

 これまでのところ、話の雰囲気的にはキャラクターのドタバタコメディーですが、それだけではないよというなにかがほの見えるかんじでしょうか。
 騒ぎがいくつか連続するうちにいつのまにかストーリーが動いていて、あれ、なんか面白くなってきた? というところで一巻は終わり。トパァズの感じる師匠との絆と、まったく威厳のない千年賢者のときどきシリアスシーンが興味深いです。

 読み終えた当日にちょうど大きな本屋に出向いたので、勢いで二巻も購入してきました。そのうちに読みます。


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