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2006.1.4 あけましておめでとうございます。/『風神秘抄』
2006.1.7 /『ゼロヨンイチロク』
2006.1.11 /『図説 西洋騎士道大全』
2006.1.14 /『運命は剣を差し出す 3 バンダル・アード=ケナード』
2006.1.19 /『スペシャリストの誇り クラッシュ・ブレイズ』『王の星を戴冠せよ バルビザンデの宝冠』
2006.1.22 /『炎をもたらすもの ファイアブリンガー1』
2006.1.26 /『スカラベ 最後の戦いと大いなる秘密の力 サソリの神3』
2006.1.30 /『空ノ鐘の響く惑星(ほし)で 8』
 2006.1.30(月)

 渡瀬草一郎空ノ鐘の響く惑星(ほし)で 8(メディアワークス電撃文庫.2005.397p.630円+税)[Amazon][bk-1]読了。戦乱の異世界を舞台に描かれるSFファンタジーシリーズ第八巻。『空ノ鐘の響く惑星(ほし)で 7』のつづき。

空ノ鐘の響く惑星で〈8〉

 シリーズものにつき、既刊のネタバレをたくさん含んでいます。

 タートム軍侵攻の報をうけ、アルセイフ国境のザルク砦をあずかるバロッサ・アーネストはかねてからの作戦を開始した。時間稼ぎをしているあいだにベルナルフォン率いる援軍も到着し、防衛線は十分に持ちこたえるかにみえた。いっぽう、西の大国ラトロアの脅威を目の当たりにしたウィータ神殿司教カシナート・クーガは、アルセイフに同盟を提案してきた。幼なじみのウルクの人格崩壊に荷担した司教を相手に、フェリオは為政者としての判断としてこれを受け入れることにする。ウルクの状態に責任を感じるリセリナは、来訪者仲間のムスカから自分たちの世界とこの世界の関係の推論を聞かされる。動揺するリセリナ。そこに姿をくらませていたシルヴァーナが玄鳥にのってあらわれる。もたらされた報せは、タートムの攻勢に崩壊の危機にあるアルセイフ防衛線への助力を求めるものだった。

 あまりに密度が濃くて簡潔なあらすじが書けませんでした、敗北。
 なにはともあれ、いつものことながら一気読みしました。おもしろかったー。今回は、国境防衛の一大戦争絵巻をいつもの若者たちのエピソードでサンドイッチしたという構成。あらゆる要素が物語のために奉仕している、という印象がますます強くなりました。描写にも展開にも過剰さを感じるところがほとんどない。ストイックだなーと思います。それがときにお行儀の良さとか突っ込み足りなさとして感じられることもあったりしますが、ストーリーにぐいぐい運ばれて味わう爽快さというのはこうした潔さから生まれるのでしょう。とにかく、たいへんに吸引力のある巻で、固唾を呑んでページを繰りました。つづき、どうなってるのかなー。

 ところで、今回のシルヴァーナのエピソードにはちょっと違和感がありましたね。普段の人物描写があっさりめなので、なにかが違うような(笑。もしかしたら、これも以後への伏線なのかもしれませんが。

 2006.1.26(木)

 キャサリン・フィッシャー(井辻朱美訳)スカラベ 最後の戦いと大いなる秘密の力 サソリの神3(原書房.2005.472p.1600円+税 Catharine Fisher "THE SCARAB",2005)[Amazon][bk-1]読了。古代エジプト風異世界ファンタジー、三部作の完結編。『アルコン 神の化身アレクソスの〈歌の泉〉への旅 サソリの神2』のつづき。

サソリの神〈3〉スカラベ―最後の戦いと大いなる秘密の力

 シリーズものにつき、既刊のネタバレを大幅に含みます。

 〈アルコン〉不在の〈お告げ所〉は将軍アルジェリンによって制圧された。〈九巫女〉はちりぢりとなり、将軍に甥を人質に取られた皇帝の軍が〈島〉と〈港〉を包囲している。不穏な情勢は続き、将軍の雇い入れた北の傭兵によってひとびとは恐怖に萎縮するようになった。ミラニィはレティアとともに将軍の手から逃れて〈影の王国〉のクレオンの下に身を寄せていた。しかし、〈アルコン〉の行方はわからず、神の声も聞こえてこない。将軍の命令によって神や〈雨の女王〉の像は次々に破壊されていく。偶然入り込んだ娼館で、ミラニィは愛する女をみずから手にかけたアルジェリンの狂気を目の当たりにした。かれは神を呪い、憎み、その存在を一から抹殺しようとしていたのだ。

 2006年、始めの一冊。
 第一巻は正直、描写は好みだけどもう少し話に深みが欲しいな……と思っていたのですが、第二巻で「おお、これは!」と目が覚め、この巻は「うおおお! なんてこった!」と読みながらもだえておりました。これはまさしくファンタジーでしか味わえないスペクタクル! 言葉を失う、とはこのことです。まったく感想になっておりませんが、この本がどういう本なのかは、翻訳をされた井辻朱美さんが巻末のあとがきで書かれているので、もし手に取る機会があったらそちらをご覧になってくださればと思います。当然ですが私の駄文よりずっとわかりやすく深みのある、しかも熱いあとがきです。読了後に読んだら感動してしまいました。私の感じたことがまるごとここに書いてある……。

 ……で終わらそうかと思ったのですが、あんまりなのでちょっとだけ。

 この本でなにより私が感動したのは、ミラニィたちが旅をする冥界の鮮やかさです。それはリアリティーなんて言葉では語れないもの。だってどうしたってあきらかに日常じゃないし現実的ではないのです。しかも、物語世界の常識に照らしても普通じゃない。だからけしてリアルじゃないと登場人物たちも思っていることがわかるんだけれど、肌に感じるし、存在のパワーを感じる。納得してしまう。想像の力にこれだけインパクトを感じたのはスーザン・プライス『エルフギフト』以来じゃないか、というくらい興奮しました。そのイマジネーションの奔流が、『エルフギフト』ではクライマックスに集約されているのに、こちらはほぼ開始と同時に始まってしまうのですよ。一冊すべてがクライマックスのようなものといってもいいかもしれない。そういえば、これは三部作の最終巻なのであり、長い流れからすればまさに大きな山場を迎えているんですよね。

 そんなにリアリティーがないシーンがつづいたら読みづらくて飽きてしまうのじゃないか、と思われるかもしれませんが、心配はご無用。冥界と並行して現世の状況がこちらも緊迫した展開で描かれるから。とほうもない力に翻弄される人間たちの、土壇場で発揮される力強さにどんどん先が知りたくなって、もっとゆっくり味わいたいようなシーンでも全然立ち止まることができなかった。それがちょっと残念なくらい、ひきこまれて読みました。

 と、ここまで支離滅裂に褒めちぎってきたわけですが、冷静に考えると、架空歴史物のような地に足がついたもの、理屈がきっちりと通るものがお好きな方にはどうかなと思います。
 だけど、魔術的なファンタジーを好まれる方にはぜひと言いたい。
 この本を読めてよかった〜と充実の読後感の残る一冊。2006年の始まりがこの本でとても嬉しかったのでした。

 2006.1.22(日)

 メレディス・アン・ピアス(谷泰子訳)炎をもたらすもの ファイアブリンガー1(東京創元社.2005.309p.1900円+税 Meredith Ann Pierce "BIRTH OF FIREBRINGER",1985)[Amazon][bk-1]読了。ユニコーン一族の少年の成長を描く、異世界ファンタジー。

炎をもたらすもの ―ファイアブリンガー1

 「創元ブックランド」という東京創元社のハードカバーシリーズの一冊。どういう叢書なのかとずっと思っていたのですが、どうやら対象はヤングアダルトのようですね。ハリー・ポッターでファンタジーをしったけれど、児童書では飽き足らない層がターゲットなのかな。昔はこういう本も児童書として出ていたように思うけど、だから発見してもらえずに読まれなかったのかもしれないので、これはいいことなのかもしれない。

 で、この本なんですが、私、著者のデビュー作『ダークエンジェル』[Amazon][bk-1]を持っておりまして、ひじょうに幻想的な作風が気に入っておりました。久しぶりの翻訳ということでとりあえず読んでみることに。

 時間がかなり経っているから私の受け止め方も違ってきているはずですが、『ダークエンジェル』よりずっとわかりやすいお話でした。大きな運命を背負った少年の成長物語であり、予言の成就の物語であり、あるいは世界の解体と再生の物語になるのではなかろうか、という、正統派の異世界ファンタジーの薫りが濃厚に漂う本です。文章も端正で、言葉の選択に心配りが感じられてとても読みやすかった。

 読んでいて感じたこと。
 シンプルな語り口で高雅に伝説を語るのと、ディテールのつまった異世界描写で体感させるのと、ぜんぜん手法は違っても、どっちもファンタジーなんだなあ、ということ。

 現実から離れる距離が大きければ大きいほどに、幻想物語には一種の高貴さが漂ってくるけれど、そのぶん感情移入が難しくなりますよね。でもあまりこまごまと描くと、身近になりすぎて幻想性が薄れてしまう。異世界の肌触りを感じることもファンタジーの醍醐味だけれど、五感を描きつつ全体で魔法の気配をつたえてくれる物語は、そんなに多くないと思うのです。

 その点、リアリティーをまったく感じられないか、反対に書き込みすぎて日常になってしまいそうなシンプルな展開とキャラクターを描きながら、この物語は幻想性をそこなわず、主役のこころにもよりそえるお話になっているなと。ようするに、バランスがいいのでしょうね。品よくまとまった作品であるなと思います。
 ユニコーンという架空の生物である、という点がリアリティー追求の必要性を薄らがせているのかな、と思いました。伝説のものがたりであるかのようなどこか遠い雰囲気であるのに、キャラクターには親近感が持てるのです。

 というわけで、読みやすいうえに幻想的で、秩序だった背景のあることもつたわってくるファンタジーでした。
 が、私としては『ダークエンジェル』のほうが好みだったかなあ、という気がしている。たぶんあちらのほうがバランスは悪いと思うのですが、夢の中をくぐってゆくような、なんだかわからない酩酊と陶酔が印象に残ってます。

 2006.1.19(木)

 茅田砂胡スペシャリストの誇り クラッシュ・ブレイズ(中央公論新社C★NOVELS Fantasia.2005.213p.900円+税)[Amazon][bk-1]読了。『嘆きのサイレン クラッシュ・ブレイズ』のつづき。短編集。

クラッシュ・ブレイズ スペシャリストの誇り

・「ファロットの美意識」
・「ジンジャーの復讐」
・「深紅の魔女」

 の三編を収録。

 書架にあったので借りてきました。
 前巻よりひきつづき、キャラクターそれぞれがそれぞれの個性というか、お得意のところを発揮して常識人が混乱に陥るお話集。
 私がおもしろかったのは冒頭の、レティシアが活躍する連続殺人事件のお話でした。謎は案外簡単なからくりでしたが、この話の肝はレティシアが殺人の専門家であること。とんでもない非人道的なスペシャリストではあっても、積みかさねた知識と経験には感心させられるものがあります。殺伐とした内容を日常的に語る青少年たちという、非日常的な光景とそれに対する一般人の混乱ぶりがおもしろかった。ほんとうにナイフのあとで誰が斬ったものか判別できるかどうかはともかくとして、このシリーズの読み所はやっぱり超人が日常を混乱させるところにあるのだなーと思いました。
 ところで、またリィが女装してますが、そんなに頻繁にやってくれなくても、と思います。ありがたみが減る(笑。

 あとの二編にはもうすこし驚きが欲しかったような気がします。

 高殿円王の星を戴冠せよ バルビザンデの宝冠(角川ビーンズ文庫.2005.286p.514円+税)[Amazon][bk-1]読了。異世界ファンタジー。

バルビザンデの宝冠 王の星を戴冠せよ

 『マグダミリア 三つの星 1.暁の王の章』(2000,ティーンズルビー文庫刊)を改題、加筆改稿。

 シリーズ途中で停止している『そのとき君という光が』とおなじ物語世界の話だというので借りてみました。
 申し訳ないのですが、あらすじはパス。
 たしか、王としての自覚のない少年がふらふら城下で遊んでいたところ、替え玉として雇っていたうり二つの少年に王位を簒奪されて――という感じのお話だったかなー。平民として生きることになった元王の少年は社会意識に目覚めて王家に反抗するグループにはいり、王と入れ替わった元旅芸人の少年は外側から切望していたリーダーシップを発揮しようとする。国内外とも不穏な情勢は激動の時代を予感させ、苛酷な運命が少年たちを待ち受けて……いるのかもしれない……?

 ふざけているようなネタをちりばめつつも真摯な内容の物語を書く著者ですが、この話にもその片鱗がうかがえます。
 が、なんというか、この本は無理に話が圧縮されているような気がして息苦しかったです。連続ドラマの総集編を見ているみたい。早回しされて急かされているような気分で読みまして、キャラクターに感情をのせる暇もなく、正直申し上げると、うーん、私にはあんまり楽しいと思えなかった。加筆改稿する前はどんな話だったのだろうか……と考えてしまいました。

 話運びはテンポが大事とは思いますが、それは必ずしも速ければいい、というわけじゃないと思うのですよね。商業出版だからいろいろと制限があって、たいへんなのだろうなあとは思うけど。

 2006.1.14(土)

 駒崎優運命は剣を差し出す 3 バンダル・アード=ケナード(中央公論新社C★NOVELS Fantasia.2005.213p.900円+税)[Amazon][bk-1]読了。戦乱の世を生きる傭兵達の日々を描く、異世界冒険活劇シリーズの三冊目。『運命は剣を差し出す 2 バンダル・アード=ケナード』のつづき。第一エピソードの最終巻。

運命は剣を差し出す―バンダル・アード=ケナード〈3〉

 エンレイズとガルヴォ。二国間の争いはすでに三十年つづき、戦乱の中で正規軍に雇われる傭兵達の役割は日増しに大きくなっていた。エンレイズに雇われているバンダル・アード=ケナードは、そのなかでも腕利きで有名な傭兵隊である――。

 という物語の背景の下、傭兵隊の隊長ジア・シャリースと素性の怪しげな医師ヴァルベイドの出会いからはじまったお話は、物騒な珍道中から双方の抱えた政治的な陰謀事件がからみあっていく、けっこう複雑な展開。それをうまいことアクションシーンでつないで最後まで飽きさせず、ラストにはちょっとした楽しい驚きが待っている、という明朗快活な歴史冒険小説ふうのお話となりました。ようやくタイトルの意味もわかって、うーん、楽しかったです。

 バンダルの面々の個性がそれぞれの役目を果たすのも楽しいし、悲惨な状況を描いていても明るさを失わない、視点は現実的でときには皮肉だけど、精神的に前向きなお話だなと思いました。そのあたりの現実寄り明朗路線とでもいうような雰囲気が、この作者の持ち味でしょうか。

 冷静にみると、エピソード全体のストーリーの流れからは第二巻の内容がちょっと横道だったかなー、番外編にしたほうがよかったのでは、とも思ったりしますが、あれはあれで大変好みなので。刊行されるのは一冊ずつなのだから、その一冊でどれだけ楽しめるか、というのもけっこう重要なことなんじゃないかとか思うわけです、最近は。

 つづきがちゃんと出てくれればうれしいなー。できれば、マドゥ=アリくんの出番を、一度にたくさんなくていいから、ちょこちょこと増やして欲しい(笑。

 2006.1.11(水)

 アンドレア・ホプキンズ(松田英、都留久夫、山口惠里子共訳)図説 西洋騎士道大全(東洋書林.2005.361,viip.4500円+税 Andrea Hopkins "KNIGHTS",1990)[Amazon][bk-1]読了。

図説 西洋騎士道大全

 12月に図書館の新着棚で見つけて借りてきた本。図説とうたうだけあって、絵や地図やなにやらが大変豊富。見ているだけでもかなり楽しいです。表紙をひらいて最初に眼に飛び込んでくる、ヴィクトリア朝の画家の描いた叙任式のロマンティックなようすにはとっても惹かれました。

 しかし内容はけしてロマンティックじゃありません。むしろリアル。西洋騎士階級の成立から崩壊までが現実的な視点から語られています。
 やっぱりね、西洋の騎士の実像はけっこう厳しいというか、高邁な精神だけでは食べてゆけないというか、なにかのステータスが実現するのは理想像だけじゃないということでしょうか。なにしろ、そもそもの始めから長期存続が難しいシステムの上に乗っかっている。武力を持っているのが基本の集団が食い詰めたらどうなるか。こんなのが暴走したら大迷惑ですよね。

 一番おもしろいと思ったのは、そんな現実は重々承知でありつつも、なおかつ騎士という存在にはある種のロマンがくっついていたのだなあ、ということ。そもそも騎士道物語をイメージして騎士階級が確立されていったような記述がたいへん興味深かった。その騎士道ロマンスの時代設定が書かれた時代よりもずっと昔の伝説を、その時代風に脚色したものだったという記述にもへえーなるほどーと思いました。昔を美化してそこに理想を求めたわけですね。必然的にイメージと現実は始めから乖離していたのですが、中世は象徴の時代であったために、騎士本人もまわりもあんまり頓着していなかったらしい。それはやはり苛酷な時代のせいなのかなと思う。ヒーローの夢を見たい時代だったのかもしれないです。

 というわけで騎士というのはまず別格の理想が存在し、理想を求めつづけるひとも捨ててしまうひとも堕落するひともはなから頓着しないひともいろいろいたけれど、長い間建前的には象徴でありつづけた。戦争の方法が変化するに従って騎士は無用のものとなっていくわけですが、象徴的な騎士はとほうもない理想像であるがゆえに憧憬の対象として生きのこったのだろうなと思います。
 本文にも書かれていますが、騎士ってほんとに日本の武士によく似てるなあ。でも違うところもやっぱりある。日本人が騎士に対して抱いているイメージは武士へのそれをスライドさせたもののような気がしているのですが、西洋人は騎士を武士に重ね合わせているのかも、とも思いました。

 ほかにも、いくつかの詳しい具体例があげられているコラムがおもしろかったです。が、本文をぶちきって挿入されると大変読みにくいのです。せめて章の終わりにいれるとかして欲しかった。

 2006.1.7(土)

 清水マリコゼロヨンイチロク(メディアファクトリーMF文庫J.2004.247p.580円+税)[Amazon][bk-1]読了。現代日本を舞台にしたミステリ風味の幻想青春小説。

ゼロヨンイチロク

 うーんと、すみません。ストーリーを説明できるほど固有名詞を覚えていなかった。
 雰囲気としては、日常の中で出会う悪意と不思議が境界線の曖昧なままつづられていく感じ。いつものように都市伝説のネタもあります。前回読んだ『君の嘘、伝説の君』よりも現実の状況がブラックで、だけど話の重心的にはより幻想に近い、かな。いままでの幻想がひとの矛盾からきていたのにくらべて、今回のは外部からやってきてそれが人間の中の矛盾を拡大させている感じ、なのかなあ。すみません、説明苦手です。

 それにしても、この話、とっても怖かったです。とんでもないことが起きているのに表面的には昨日と変わらない日々がつづいていく、というじつにありえそうな日常の光景にぞくっとしました。どんなに個人的に恐怖の体験をしていても、他人には関係のないことというか。その温度差に自分のリアリティーが醒めてしまうところとか。つらい現実を見なかったことにしてひきこもってしまうひとなんかもそこらにいそうだし。そのあたりの現代日本における空気感を伝えるのがいつもながら上手いなあと思います。

 というわけで、この暗くてかわいた雰囲気と軽妙な会話とですすんでいくお話は、ふしぎというより不安という方向に傾いていて、読んでいて非常に落ち着かなかったです。この感じ、以前、寮美千子の本を読んだときに感じた印象に似ているような気がした。雰囲気にはすごく惹かれるけど、あんまり直視したくないものをみせられてしまいそうな予感がする。といっても、嫌なものがあからさまに描かれることはまずないのですが。とはいえ、ぼんやりと影がみえる程度というのが余計に怖さを増すんだよなー。
 何を書いているのか、だんだんわからなくなってきましたが……(汗。

 救われるのは、事件のきっかけとなった人物がどうしてそうなったのかの理由が健全だったことかな。どんなに逃げまわっても、現実と向き合わなくちゃならないことに変わりはないんだよねー。ならば自分から進んでむきあいたいものだ、と思うだけは思う私でした。

 続編として『ゼロヨンイチナナ』[Amazon][bk-1]があります。まだ読んでませんが。

あけましておめでとうございます。 2006.1.4(木)

 2006年になりました。今年もどうぞよろしくお願いいたします。

 正月はだらだらしているわりに疲れています。普段より家の人口密度が高くて、わさわさと落ち着かない。おまけに子守をしながらテレビを見ていたりも。正月恒例のスポーツはほとんど制覇しました。でも、あんまり集中してないので、天皇杯なんかは見た意味がまったくなかった気が。
 三日はめずらしく見たいドラマが三本もかさなって苦悩しました。見たいドラマがあること自体めったにないのにー。

 年頭にサイトの年改めの準備をするたびに思う。もうすこし、らくに更新できる手段はないものかと。

 荻原規子風神秘抄(徳間書店.2005.590p.2500円+税)[Amazon][bk-1]読了。平安朝末期の戦乱の世を舞台にした、孤独な少年と少女の恋を笛の音と舞とともに幻想的に描く、歴史ファンタジー。

風神秘抄

 昨年十二月の初めくらいに読んだのだったような気がする。

 時は平安朝の末期。ちょうど昨年の大河ドラマのちょい前の時代の日本が舞台。
 主人公は源氏として平家との戦に参加して敗れ、よりどころを失った少年。幼い頃から孤独な笛の吹き手だった少年は、京で死者をなぐさめる舞を舞う少女と出会うのですが、自分の笛の音と舞によってあらわれる夢幻につよく魅了されたかれは、欲望のままつきすすんでいくうちにパートナーである少女を文字通りこの世から見失ってしまう……というおはなし。

 主人公とヒロインの笛の音と舞によってたちあらわれる、天からの光の射しこむ中に白い花の舞い落ちる幻想的なシーンがとても素敵でした。
 言葉ではなく、こころでもなく、全身全霊で奏でるなにかが大気をゆりうごかし、現世から別の世界までひびいてゆくということが、肌につたわるような描写だった。だから、この物語の中では殺伐とした世のなかで無念のうちに死に伏しても、魂だけは浄化されたきれいなところにのぼってゆくことができるのだろうと感じたし、この世ではない異界、それはもしかしたら至福の場所なのかもしれないと感じもしたわけです。

 というわけで、私はこの話は異界にいってしまった恋人を取り戻す、というパターンのお話なのだと思っていたわけですよ。その後の展開もそれを示唆するようなものだったと思うし、その点ではかなり読み応えがあったし、いろいろと期待を裏切らないおはなしとなっていたと思うのですが。そのほかにも幻想世界では「勾玉」三部作からの鳥彦王の活躍とか、現実では上皇との対決とかいろいろ興味深かったし。

 なのに、どうして最後の最後に来てこんなことばを入れるのかなあ……。
 こういうふうに地続きであったほうがおもしろいと感じるひともいるのかもしれないけど。でも、私としてはそこまで積みあげてきた感動が潰えさってしまったような衝撃でありまして。うーんうーん、いったい私は何を読んでいたんだろう。いまだにどうとらえていいのかわからない。だからこれ以上のことは書かないけど。ものすごく好みの世界を描いてくれるのに、どこかで足もとをすくってもくれる。素直にひたらせてもらえない。この作者と私の相性はいいのかわるいのか、いまだによくわかりません。

 でも、ほんとうに舞と笛のひびきあう光景はすばらしかったのです。あの部分だけとりだして、コレクションしておきたいくらいでした。


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