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2006.7.4 /『トリニティ・ブラッド Reborn on the Mars IV 聖女の刻印』
2006.7.6 /『真実(ヴェリティ)の 帰還 上 ファーシーアの一族』『真実(ヴェリティ)の 帰還 下 ファーシーアの一族』
2006.7.10 /『隻腕のサスラ 神話の子供たち』
2006.7.12 /『モンゴルの歴史と文化』
2006.7.14 /『片翼で飛ぶ鳥 神話の子供たち』
2006.7.16 /『戦う司書と雷の愚者』
2006.7.18 /『侠骨記』
2006.7.20 /『図書館の神様』
2006.7.27 /『銃姫 6 〜The Lady Canary〜』
 2006.7.27(木)

 高殿円銃姫 6 〜The Lady Canary〜(メディアファクトリーMF文庫J.2006.293p.580円+税)[Amazon][bk-1]読了。魔法を銃で発動する戦乱の世界で運命に翻弄される少年少女の成長を描く、異世界ファンタジーシリーズ、第六巻。『銃姫 5 〜The Soldier's Sabbath〜』のつづき。

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 シリーズものにつき既刊のネタバレを含みます。

 伝説の銃〈銃姫〉を追って旅をしている少年魔銃士セドリックは、思いを通わせ始めた少女アンブローシアにガリアンルードの王女であることを告白された。祖国のためにスラファトの竜王の人質となって知ったこと、そのためにセドリックに近づいたのだということを。セドリックを利用できなくなったと告げる彼女は、みずから竜王のもとへおもむく決意をしていたが、セドリックはそれを否定し、暁帝国へふたりで逃げようと提案する。おたがいの心を確かめあうふたり。だが、ともに旅をしてきたセドリックの姉エルウィングはスラファトに協力するメンカナリンのシスターである。どうやって姉にこのことを告げようかと、悩むセドリック。そんなおり、セドリックの母親を知るグイリバルト大律師が訪れた。大律師はセドリックにかれに課せられた任務を思い出させ、エルウィングの容態がよくないと告げる。

 いっきに楽しく読みました。
 アンブローシアと急接近したセドリックはエルウィングとの板挟みに。次第に明らかになるかれの出生の秘密。エルウィングのために訪れた灰海で出会った「宿命の敵」とはなにものか。スラファトの側にもスポットが当たってきたし、だんだん話が収束して緊張感が高まってきた感じです。暁帝国の方々はなぜか漫才をされていますが……(苦笑。

 この方の文章はリズムがあって読みやすいですが、意識の強い文章かなと思います。ある意味では作者の一人称のような饒舌な文章。淡々と客観的に自分で世界を眺めるのではなく、あらかじめセットされたすこし皮肉な視点から世界を見るような気分。単純な事実を読んでいてもなにかしら発見があるのはそのせいだと思います。が、そこで選択された言葉や言い回しからこの世界の人々の思考形態までを推測してしまうのは果たしてよい読み方なのだろうか。疑問を抱きつつも、私はそういう風に読むことしかできないのですが。

 今回、エルウィングの秘密が割とあっけなく明かされたのがちょっと拍子抜けでした(セドリックはまだ知らないようですが)。むしろセドリックのお母さんのほうが重要みたいです。

 2006.7.20(木)

 瀬尾まいこ図書館の神様(マガジンハウス.2003.165p.1200円+税)[Amazon][bk-1]読了。

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 不本意ながら高校の文芸部の顧問になったヒロインが、ただひとりの部員と関わっていくうちにほんのすこし文学に目覚め、停滞していた彼女の人生にも変化が訪れる、というようないわゆる人間性回復のお話。

 辛い過去や泥沼な現状もとぼけたようなユーモアにくるまれて、テンポよくかろやかにするすると読めます。
 国語教師なのに体育会系で文学嫌いのヒロイン早川清と、大まじめだけど淡々としている部長の垣内君との意表を衝いたやりとりがおもしろかった。軟弱だけどやさしい弟くんもかわいい。
 ヘタウマな絵柄のほのぼのいい話系少女マンガみたいだなあと思いました。

 タイトルは「図書室の神様」のほうがふさわしい気がします。

 誤解する人はいないと思いますが、この話、SFでもファンタジーでもミステリでもありません。
 神様もでてきませんので!(笑。

 2006.7.18(火)

 宮城谷昌光侠骨記(講談社文庫.1994.264p.467円+税)[Amazon][bk-1]読了。中国の春秋時代を背景にした短編集。

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 「侠骨記」「布衣の人」「甘棠の人」「買われた宰相」の四編を収録。
 それぞれ、魯の曹沫、虞俊、召公せき、百里奚を中心とした物語です。といっても私には誰が誰やらさっぱりわからなかったのですが。中国史は何度読んでも忘れてしまいます。読めない漢字は暗号のような気がする……(汗。

 たぶん歴史のおいしい部分を材にとっているのだろうに、盛りあがることをわざと避けているような淡々とした筆致が印象的な作品群。ゆえにどこまでも品がよく、格調高く、最後まで乱れるところがありません。こういうのを端正な文章というのだろうなと思います。視点がものすごく高みにあるので、起きるものごとがすべからく小さなことのように感じられるのですが、実際そこに生きていた人たちにとってはどうだったのだろうなと考えてみたりする。

 なかでは、いちばん昔話的奇想天外なふんいきがあった「布衣の人」が気に入りました。なんで俊の父ちゃんはこんなに理不尽なのだろう……(汗。

 2006.7.16(日)

 山形石雄戦う司書と雷の愚者(集英社スーパーダッシュ文庫.2006.253p.552円+税)[Amazon][bk-1]読了。すべての死者が『本』となる世界を舞台に武装司書と異端の教団の戦いを描く、異世界ファンタジーシリーズ第二作。『戦う司書と恋する爆弾』のつづき。

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 シリーズ物につき既刊のネタバレを含みます。

 神々の時代、過去管理者バントーラによって造られた神立バントーラ図書館。そこに収められるのは死者の魂たる『本』である。トアット鉱山の事件から半年後、図書館は正体不明の『怪物』の襲撃を受けた。哄笑の表情の彫り込まれた顔面を覆う金の兜をかぶった『怪物』は、館長代行ハミュッツ=メセタを呼べと言うが、あいにく彼女は留守であった。駆けつけた三人の武装司書たちは、複数の技をあやつる『怪物』とまともに戦うこともできず逃亡を許してしまう。いっぽう、武装司書見習いの少女ノロティ=マルチェは、かつて武装司書であった『本』を奪われてブジュイ商業都市を訪れていた。なかなか糸口をつかめずに自分のクビを心配し始めたノロティの前に、ハミュッツ=メセタがあらわれる。ブジュイの街中を歩くうちにふたりは殴られ屋の男ザトウと出会った。ハミュッツはノロティに、ザトウを守れと極秘に命じるが――。

 思いがけない襲撃事件から始まる冒頭、正体不明の怪物をまっすぐに追いかけていくのかなと思いきや、なんかいろいろと予想とは違う方向に進んでいったなあというお話。ザトウの行く末はあらためて考えると予定調和なのですが、その道中がかなり私にとっては想定外だった。なかなかスリリングで面白かったです。

 あいかわらず、必要最小限の事実だけを簡素に挿入したストーリー中心の文章です。明晰なのに物質的な質感が乏しいせいかどこか抽象的。そのためなのか、話全体が非人間的な境遇にある若者の再生を描いたおとぎ話のような雰囲気になっているのが興味深いです。

 今回、図書館そのものが出てきたので、死者の残した『本』がどのようにして利用されているのかがわかりました。あと、ノロティが新聞を読んでいたので、『本』以外のメディアもちゃんとあるのだということも判明。だけどこの世界の『本』にはノンフィクションしかないのかなと、ふと思ったりして。疑問が尽きません。

 神溺教団の実態も、バントーラ図書館の真実もいまだによくわかりませんが、それを知りたいと思うことも続編を読む意欲に繋がっていく、面白いシリーズだなと思います。

 2006.7.14(金)

 榎田尤利片翼で飛ぶ鳥 神話の子供たち(講談社X文庫ホワイトハート.2005.264p.580円+税)[Amazon][bk-1]読了。壊滅後の地球を舞台に、少女の運命に焦点を当てて生き残った人類のすがたを描く未来SF。『神を喰らう狼』と同一世界を舞台にした「神話の子供たち」シリーズの二作目。『隻腕のサスラ 神話の子供たち』のつづき。

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 シリーズ物につき既刊のネタバレを含みます。

 父に託された情報のためにメディカルセンターの幹部から追われる身となった隻腕の少女サラは、シティを出て彼女の味方だというエリアスと双子の少女とともに旅立った。めざすのはシティに対抗する勢力をまとめている若者、金髪のフェンリルの元だ。だが、シティの過保護な環境に馴れたサラにとってDエリアの旅は苛酷だった。サラは役に立たないうえに足手まといにしかなれない自分に苛立ち、勝手に水くみに出かけたあげく、テントに戻れなくなってしまう。荒野をさまよい歩いて気を失ったサラは、ラコタ族の戦士ホークアイとその妹ティティに助けられる。

 舞台はシティを離れて外へ。
 会話中の固有名詞から、サラたちが逃亡しているのは北アメリカ大陸であることがわかります。そして出会うのはネイティブアメリカンのラコタ族。崩壊前から変わらぬ生を営むラコタ族の自然な日常と、彼女を彼女自身としてうけとめてくれる二心のない態度が、頑ななサラの心をときほぐしていく……というのがメインテーマですかね。

 シティ育ちのサラの出会う、初めての異文化の描写にわくわくしました。それと、サラの同行者の双子姉妹ルアンとディンはいままでも存在感抜群でしたが、今回はエリアスが面白かった……というとちと語弊がありますね。面白いというより、より魅力的になった、でしょうか。ホークアイとの絡みでもサラしか眼中にないのね、という感じです。エリアスがサラとどうにかなるような気配はまるで見えないのですが、するとエリアスは報われない愛に殉じることになるのかも、とか勝手に推測して喜んでいる私(鬼。
 つづきが楽しみです。

 余談。
 じつは私、この本に限らず、ネイティブアメリカンについての文章を読んでいるとひっかかることがあります。それはなにかというと、彼らの名前が英語変換で表記されることに違和感を覚えるようなのです。英語を使う人が、彼らの名前を英語に訳すのは理解できます。だけどなんで日本人が英語読みをそのまま使うんだろう、日本語に訳せばいいじゃん、と思うのですが。まあ、いまはかれらも英語を使っているので、そうなってしまうのは仕方ないのかもしれないですが。それにかっこいい日本語にするのも難しいだろうなとも思いますが。現実問題として、こうすればいい、という方法は提示できませんし。でもなあ……。なんとなく、英語という文化を間に挟んで距離を置き、直接相手に向かいあっていないようなもどかしさを感じてしまうのですよね。いっそのこと、ネイティブアメリカンの言葉をそのまま音として表記してくれないものだろうか、と思います。

 2006.7.12(水)

 ハイシッヒ(田中克彦訳)モンゴルの歴史と文化(岩波文庫.2000.451p.860円+税 Walther Heissig "EIN VOLK SUCHT SEINE GESCHICHTE",1964)[Amazon][bk-1]読了。

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 今年はモンゴル建国八百周年なのだそうです。というニュースを聞いてから出かけた図書館で借りてきた本。モンゴルの歴史と文化を、その第一次資料であるモンゴル語文献を求めて旅をした学者たちのすがたとともにつづる、専門的なエッセイのような本でした。

 中国語書きされた文献を貸してもらった学者が、袋とじ本の一枚一枚をわけて青焼きコピーする話とか、受け継いだ文献を砂漠に埋めたおじいさんのことを聞きつけて、一緒に埋めたという当時の子供とその場所を特定するのにあちこち掘りまくった話とか、おもしろいエピソードがたくさんありました。

 どんなに政情不安な時代でも、知りたいという欲望にかられたひとびとの情熱を妨げることはできないのですねえ……。

 訳者あとがきに学生よりも若い研究者に反響があったと書いてありますが、たしかに入門向きの本とはいいかねます。その当時の雰囲気はつたわってくるけれど(とくに近代史のあたり。日本が大陸でなにをやっていたかの輪郭が第三者視点でわかります)、モンゴル民族とはなんぞや? という問いに端的に答える本ではなかったような。それと、訳文がこなれていないのでかなり日本語として読みにくいのがとっつきにくさを倍加している気がする。おもしろかったですが、読むのに苦労したことはたしかです。

 個人的にはやはり青焼きコピーの話がもっとも印象的でした。昔、稼業の手伝いで大量に青焼きコピーをしていたことがあったもので。あれってもの凄く臭いんですよねえ……アンモニアガスを使用するからさ(汗。

 2006.7.10(月)

 榎田尤利隻腕のサスラ 神話の子供たち(講談社X文庫ホワイトハート.2004.276p.630円+税)[Amazon][bk-1]読了。壊滅後の地球を舞台に、少女の運命に焦点を当てて生き残った人類のすがたを描く未来SF。『神を喰らう狼』と同一世界を舞台にした「神話の子供たち」シリーズの一作目。

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 十六歳のサラは、皆に亡霊(ゴースト)のようだと言われていた。子供の頃の事故によって片腕を失ったサラは記憶に障害を生じ、感情が表に現れなくなってしまったらしい。父親を亡くしてひとりになったあとも、サラは周囲に距離を置いたまま淡々とアカデミアでの日々を過ごしていた。サラが迷うのは、夢の中でだけだ。夢の草原を駆けてくる馬とその背にまたがる金髪の青年。さしのべられた手にためらって、一瞬のチャンスを失ってしまう。くり返される夢の後味はいつも悪かった。心的外傷なのだろうとサラは思う。そんなある日、アカデミアに金髪碧眼の美貌を持つ若い教授がやってきた。エリアスと名乗る彼は、見捨てられた汚染地区Dエリアに生まれ育ったというふたりの少女、ルアンとディンをともなっていた。

 孤独な少女の平凡な日々に変化が訪れるとき、世界が変わる。

 こうして書いてみるとわりとありふれた展開なのかなと思うわけですが、どっぷりと物語世界に浸っている間はそんなことは感じない。サラになってサラの体験することをサラとして受けとめて、泣いたり怒ったりしてしまうのです。
 上から俯瞰するのではなくて、登場人物の目線から世界が描かれる。こういう話が私はとても好きです。
 それに著者の文章もとても上手いのだなと思います。最小限の言葉で状況を自然に理解させてくれ、すんなりとヒロインの感情に同化させてくれる。読み手が我に返るようなつまずきや滞りがなくて、すうっと抵抗なしに頭に染みこんでくるような文章。派手さはないけど、とても自然というか。とにかく素直に受け入れられる。言葉を読んでいる意識が薄くなる。ページを開くとひといきに最後まで読んでしまいます。よほど私の生理に合っているのだなあとちょっと感動してしまいました。

 今回はシティに住んでいるサラ視点ということで、前作ではよくわからなかったシティ内部が描かれた一冊でした。サラの個人的な小さな世界の話だったはずが、あらたな登場人物のもたらす局面や情報によって閉ざされていた扉がしだいにひらき、大きな世界へとひろがっていく過程がとてもスリリングで面白かった。話が大きくなっていく割にコンパクトにまとまっているのも好感が持てます。とても気に入ってしまいました。続きも読みます。

 2006.7.6(木)

 ロビン・ホブ(鍛冶靖子訳)真実(ヴェリティ)の帰還 上 ファーシーアの一族(創元推理文庫.2006.676p.1429円+税 Robin Hobb "ASSASSIN'S QUEST",1997)[Amazon][bk-1]。
 ロビン・ホブ(鍛冶靖子訳)真実(ヴェリティ)の帰還 下 ファーシーアの一族(創元推理文庫.2006.664p.1429円+税 Robin Hobb "ASSASSIN'S QUEST",1997)[Amazon][bk-1]読了。重厚かつ繊細な生活感あふれる描写で、孤独な少年の苛酷な運命と王家を巡る陰謀を描く、異世界ファンタジーシリーズ。全三部構成の第三部完結編。『帝王(リーガル)の陰謀 下 ファーシーアの一族』のつづき。

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 シリーズ最終巻につき、既刊分だけでないネタバレをたくさん含んでいます。

 六公国を統べるファーシーア一族の庶子であるフィッツは、異腹の兄リーガル王子によって捕らえられ、処刑された。〈気〉と呼ばれて忌み嫌われる獣と心を通わせるわざを使用していたことが、その罪状だった。ブリッチとシェイドの尽力によりひそかに命ながらえたフィッツだが、その生は社会とのつながりを断ったうえで得られたものだった。赤い船団の脅威にさらされつづけた沿岸地域は壊滅状態に陥っていた。旧きものへの助力を求めた継ぎの王ヴェリティの行方はわからないまま、即位したリーガルの専横によって公国内部はさらに疲弊し混乱を増していく。恋人モリーを失い、復讐心と憎悪に突き動かされたフィッツは、狼ナイトアイズとともにリーガル暗殺のための旅に出る。

 辛い現実に息もつかせず、これでもかと容赦なく向き合わされる上巻。
 状況を打開し解決する道は、かけがえのない物を捧げねば得られないものだと悟らされる下巻。
 分厚い二冊の第三部は、これまでつみあげてきた作品のリアリティーを裏切ることのない、堂々として荘厳な物語になりました。たいへん面白かったです。上巻は少しずつ噛みしめるようにして、下巻は物語に突き動かされるようにして一気に読みましたが、その間中充実した時間を味わうことができました。

 読み終えて、どちらに進んでも苦しみが待ち受けている。そんななかでも逃げ出すことなく、すべてのものにとっての最善の道を選び取ろうとするものの、重たく辛くせつなく哀しいものがたりであったなと思いました。ほんとうに中身のぎっしりとつまった、どこにも手抜きのないお話だったと思います。

 ここからかなりネタバレが入りますので、未読の場合あらためてご注意。


 ずっとフィッツの辛い話を体感しつづけていて、ハッピーエンドを期待しなかったといえば嘘になります。
 だけど、これほどまで緻密に丁寧に明も暗も描かれた世界には、どこにも翳りのないような幸せな結末はけして訪れないだろうと、読みながら感じずにはいられませんでした。現実に限りなくちかい存在感を持った世界は複雑すぎて、割り切ることのできない物語をほかにも多く抱えているだろうなと思うから。存在するものの数だけ人生があって、幸せもまたその数だけあるのだろうなと、しみじみと感じた。最後にはほんとうに切ない思いが残りました。

 ところで、物語の視点はフィッツに据えられていて最後までかれの苦悩も痛みに共感しつつ読み進めたわけですが、この第三部で私がもっともひかれたのは真の王ヴェリティの運命でした。

 真の王を求めての長く厳しい道中、次第にフィッツが現実とは異なる感覚に足を踏み入れてゆくあたりから、この話は異世界のというより異界の話になったようでした。救いを求めて旅立った王は助力を得るためにみずからのすべてを差しだして、半ばこの世のひとではなくなっていたのではないかと思われます。
 いったい、この長い不在の間にかれが体験したものはいかばかりであったのか――そのことを想像させるだけで胸がいっぱいになるようなヴェリティの存在にふたたび出会ったとき、物語が一気に終息へむかい出したのを感じました。

 この物語の中でもっとも気高く、人間的にも大きな存在だったヴェリティ。もしかしたら、かれは初めからこうした運命のために生み出された人物だったのかもしれません。入寂してゆくかれを見守るしかないフィッツやケトリッケンの嘆きが自分のもののように思えてひどく辛かったですが、それでもどこか夢のようなうつくしさと静寂がかれをとりまいているのが救いだったような気がします……あらためて思うだに残酷な夢なのですが。

 その後の展開はほんとうに吟遊詩人のうたう伝説のようでした。嵐の過ぎ去った後に残された現実は苦い物でしたが、おだやかな日常を取り戻したことには意味があると思いたいです。

 思い返すと、まだフィッツとともに壮大な夢を見たような気分がよみがえってきます。
 〈気〉が生命そのものにそなわった力だとすると、〈技〉とはいったいなんなのだろう。結局はっきりとした答えは得られないままでしたが、異界のものであるそれは、もしかすると死のちからのようなものなのだろうか。この物語世界のファンタジーとしての力には、この〈気〉と〈技〉というふたつが大きく貢献していると思います。
 これから〈気〉と〈技〉がどんな風に描かれてゆくのか、とても楽しみです。つづきのシリーズを首を長くしてお待ちしています。

 ところで、この息のつまるような話の中で、私の救いだったのはナイトアイズの存在でした。
 人間に近づきつつあるとはいえ、かれの狼らしい単純で合理的な思考は新鮮で、硬直する状況にふっと息抜きをさせてくれる。その瞬間がとても好きでした。“遠吠えする牝”には笑いころげそうでしたよ。狼は無敵の天然だ(笑。

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 吉田直トリニティ・ブラッド Reborn on the Mars IV 聖女の刻印(角川スニーカー文庫.2003.350p.571円+税)[Amazon][bk-1]読了。遠未来の地球で吸血鬼と人間の戦いを描く、ゴシックなアクションシリーズ。『トリニティ・ブラッド Reborn on the Mars III 夜の女皇』のつづき。

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 シリーズものにつき、既刊のネタバレを含みます。

 枢機卿の命令を果たし、真人類帝国から帰還した国務聖省の派遣執行官のアベルと調査員のエステル・ブランシュは、慰霊式典のため教皇庁属領都市イシュトヴァーンにやってきた。一年前、ここでは帝国貴族との壮絶な戦いがあった。そのただなかにはエステルもいたのだ――。しかし感慨に浸る間はなかった。イシュトヴァーン大司教ダヌンツィオの思惑によって、エステルはイシュトヴァーンを吸血鬼から解放した救国の英雄、聖女に祭りあげられていたのだ。ダヌンツィオはエステルの活躍をオペラとして上演するという。開演前のスピーチを要請されたエステルは渡された原稿に違和感を持つ。そして、彼女がみずからの言葉で聴衆に訴えはじめたとき、帝国からの刺客を名のる長生種の娘が舞台にあらわれた。

 このシリーズ、すこぶる不純な動機で読んでいるので、感想を書く意味はあんまりないような気がしてきましたが、いちおう読んで思ったことをかいつまんで。

 長生種と短命種の分かれ道にはSF的な背景がありそうですが、教皇庁と帝国の関係がなんとなく中世の十字軍みたいな構図であるなあと、いまさらですがそのことがつよく感じられる展開になってきたかなと思います。

 正直に言って、この巻は読んでいてあんまりのれなかったです。予想外のことは起こらないし、なによりも組織内での足の引っ張り合いってあんまり好きじゃなくて。敵方に少しでも理があれば我慢できるんですけど、今回はうーむ(汗。相変わらずガンスリンガーの出番にはときめいておりますが(苦笑。


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