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2006.4.2 /『さまよう愛の果て 失われた王国と神々の千一夜物語』
2006.4.11 サーバー障害について/『かなしき女王 ケルト幻想作品集』
2006.4.14 /『彩雲国物語 藍より出でて青』
2006.4.22 /『伯爵と妖精 涙の秘密をおしえて』
2006.4.26 /『キーリ 7 幽谷の風は吠(な)きながら』
 2006.4.26(水)

 壁井ユカコキーリ 7 幽谷の風は吠(な)きながら(メディアワークス電撃文庫.2005.314p.570円+税)[Amazon][bk-1]読了。ノスタルジックな雰囲気の遠未来SFファンタジー。シリーズ7冊目。『キーリ 6 はじまりの白日の庭(下)』のつづき。

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 シリーズ物につき既刊のネタバレをたくさん含みます。

 幽霊の見える少女キーリは、不死人のハーヴェイとラジオに憑依した兵長とともに教区境のバーに滞在していた。やはり不死人であるベアトリクスの消息はつかめないままだ。バーではマスターの結婚を祝う宴が催され、キーリもひとときの楽しさを感じる。この幸せがずっとつづけばいいのに。ところがラジオの兵長の様子がおかしくなった。本体のラジオが痛んだために記憶に障害が出ているようなのだ。修理屋にもう寿命かもしれないといわれた三人は、古いラジオの部品を求めて戦前の高度文明時代の遺品も見つかるという北西鉱山区に旅立つことになる。

 ベアトリクスの行方がわからないまま、兵長の一大事が発生。兵長の記憶障害のせいですこしヘンな状態ではあるものの、最初の三人による汽車の旅がメインということで、この巻はシリーズ開始当初を彷彿とさせるような幽霊譚でした。いつものように、温度の低いクリアな文章によって淡々として描き出される物語世界の、しみいるような情感を堪能。キーリと出会った死者たちの凍りついた想いが、とどこおった時間が流れ始めるようにうごきだし、とかされ、浄化されてゆく。哀しみと寂寥感のなかに救いのともしびがほのかに灯るような、これはそういう物語だったなと思い出す、そんな一冊でした。

 それでも、そのこと自体が物語の終わりに近づいていることのあかしのようでして、本来変化しつづける存在であるキーリがことあるごとに変化を畏れ、このままこの旅がつづけばいいのにと願うのに、哀しいようなせつないような気持ちになってしまいます。時はながれ、すべては変化してゆき、流れ去るそれをとどめることは誰にもできない。それでもこのままでいたいと願うのはいつかは終わることをどこかで意識しているからで、つまりはこの一瞬のしあわせがどれだけ大切なものであるかを強く感じているからなのですよね。自分の来し方行く末に思いを馳せるような中年ならともかく、この歳で幸せをこれだけ愛おしみ貴重に感じざるを得ない孤独なキーリに、なにかよい解決はないものかと思うのですが、この物語に安易なハッピーエンドはまったく似合わないなとも思うので、うーん、どういうふうに決着がつくのやら、つづきを読むのが楽しみなような怖いような、なにやら困った気分でございます。

 あれ、ハーヴェイのことにまったく触れませんでしたね。かれはかれで置いていかれるはずだった自分がいつのまにか置いていく立場になりかけているという葛藤があって、それでいろいろとあったような気がするのですが、読了後時間が経ちすぎなので省略いたします。今回私はキーリにばかり感情移入してたらしくて、ハーヴェイがなにしてたかよく思い出せなかった。ごめんよ、ハーヴェイ。

 2006.4.22(土)

 谷瑞恵伯爵と妖精 涙の秘密をおしえて(集英社コバルト文庫.2006.284p.514円+税)[Amazon][bk-1]読了。キザな美形伯爵と妖精博士の女の子のロマンティック・ファンタジー、シリーズ第七作。『伯爵と妖精 取り換えられたプリンセス』のつづき。

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 シリーズものにつき、既刊のネタバレがたくさん含まれます。

 エドガーの言葉を信じ切れないリディアは、妖精博士の仕事に無理矢理休暇を取ってロンドンからスコットランドの家に戻っていた。元海賊の少女ロタが友人として訪ねてくれ、リディアの生活はおおむね平穏だ。時をおかずに届くエドガーからの手紙が気になる以外には。そんなリディアの元に、エドガーが成り代わった青騎士伯爵の血筋のものが百年前にもあらわれていたという情報が妖精経由で届く。青騎士伯爵についてくわしく知るため、リディアは伯爵家に代々仕える人魚(メロウ)の一族の棲むマナーン島に赴くことにする。いっぽう、ロンドンでは、エドガーに信頼を寄せる妖精画家のポールが琥珀の涙を流すふしぎな少女と出会っていた。

 つい「涙の理由(わけ)をおしえて」と唱えてしまうのですが、「秘密」ですね、「わけ」ではなくて。ついでにいうなら、秘密を抱えた涙を流しているのはリディアではなく、ポールの拾った娘さんです。まあ、一番最後まで読めば、リディアのほうにもいろいろと含みがあることはわかるんだけども。

 あいかわらず甘い、女の子向けの極地のような展開と雰囲気です。はっきりいって少女趣味ですが、好きなんですよねーこういうの(笑。BGMは勝手に尾崎亜美の「マーメイド」@『三重マル』でした。中学生の時からかわらない夢見る乙女の部分を刺激してくれるお話。

 恋愛ものの醍醐味である、すれちがいつつも徐々に接近していく、という部分をいろんな要素を絡めながら描くのが上手いなあ、と今回も思いました。双方に適度にいろいろと逡巡が生まれるのを書くのと、事件をきちんと進行させるのと、『魔女の結婚』ではちょっと片方にかたよってダレたりしましたが、このシリーズはそのバランスが上手くとれていて読んでいてとても楽しいです。

 ただ、妖精関係のいろいろはちょっとばかり恣意的にあつかわれているかなとときどき感じます。すこしの違いなんですが、イメージが違うと感じる部分があるのです。幻想小説ではイメージとか象徴が大切なのだと私は思うので。そういうものを求める話ではないとわかってはいるんですが……やっぱり私は融通が利かないようです(汗。

 ともあれ、レイヴンがあいかわらず可愛い! いいから、どんどん伯爵を困らせてやりなさい(笑。
 それと、ニコったら、文通まで始めたんですねー。いや、伯爵はニコの扱いがうまいわ。

 2006.4.14(金)

 雪乃紗衣彩雲国物語 藍より出でて青(角川ビーンズ文庫.2006.255p.476円+税)[Amazon][bk-1]読了。立派な官吏をめざすしっかりものの女の子とくせ者揃いの臣下たちの、中華風異世界ファンタジーシリーズ、十冊目。『彩雲国物語 光降る碧の大地』のつづき。

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 今回は短編集です。収録作品は、
「王都上陸! 龍蓮台風(タイフーン)」
「初恋成就大奔走!」
「心の友へ藍を込めて 〜龍蓮的州都の歩き方〜」
「夢は現に降りつもり」

 謎のヴェールにつつまれていた(笑)藍家の天才、藍龍蓮くんのひととなりがようやく文庫だけ派にも明らかになる一冊。

 雑誌『The Beans』に掲載されたものが二編、書き下ろしが1.3編だそうです。端数はおそらくあとがきの後、ホントの巻末に収録された一編のことかと思われます。ほぼ明るく元気に進んできた一冊にあって、この掌編はかなりメロウな雰囲気でした。王様、がんばれよー。

 そのほかはほんとに「楽しい」というひとことがふさわしい内容だったです。龍蓮の筋の通った変人ぶりもそれを丸ごと受けとめる秀麗たちのふところの広さも、おおらかで明るくすがすがしい。それと、有能な人物をほんとうに有能そうに描いてみせてくれるところ。このお話の魅力だなと思います。

 そして黎深さんの振り切れそうな上下っぷりにはもう……さんざん笑いましたよ。本を読んでいてほんとうに吹き出したのは久しぶりだし、突っ伏したのはおそらく初めてじゃないかと思う。いきおいあまって、本の角で頬に傷をこしらえてしまいましたよ……馬鹿だなあ。

 時系列的には、秀麗が会試に合格して、茶州へ派遣され、また戻ってくるまでという大きなエピソードのあいだの息抜きのような感じでしょうか。楽しみながらいままでのおさらいをして、前巻の後日譚があって、最後にこれからの展開への大きな期待とちょっとの不安を抱かせるという、にくらしい構成になっております。うわーん、続きが読みたいです〜。

サーバー障害について 2006.4.11(火)

 2006年4月8日未明より11日午前中にかけて、アクセス障害により当サイトの閲覧ができなくなっておりました。
 レンタル元のサイトも表示されなくなっていたので非常に焦り、一時は移転も考えましたが、なんとか復旧してくれてよかったです。引っ越しするのは大変なのよ〜。

XREA】の告知→「「xrea.com」を含むURLのアクセス障害について(06/04/11 7:00 AM)

 たいしたことはありませんが、この間の私の経過はメモのほうに書いてあります。→「サイト閲覧不能

 ブログを別サービスにしておいてたすかった〜としみじみ感じた三日間でした。

 フィオナ・マクラウド(松村みね子訳)かなしき女王 ケルト幻想作品集(ちくま文庫.2005.317p.950円+税 Fiona Macleod "THE WORKS OF FIONA MACLEOD VOL.II",1910)[Amazon][bk-1]読了。スコットランド・ケルトの民間伝承を元にした幻想短編集。

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 1925年に第一書房から刊行された『かなしき女王 フィオナ・マクラオド短編集』を復刻した『かなしき女王 ケルト幻想作品集』(沖積舎,1989)を文庫化したもの。文庫化にあたり著者名をフィオナ・マクラオドからフィオナ・マクラウドとし、本文を現代仮名遣いにあらため、あらたに松村みね子訳『愛蘭戯曲集 第一巻』(玄文社出版部,1922)所収の「ウスナの家」が収録されている。

 北の夢幻の中でつむがれる、神話的で霊的なものがたり。
 伝説の人物たちの人生の一幕はさらに狂気をはらんで破滅的に、キリスト教の僧侶の霊的な目覚めは静寂なかに憂いをおびた美しさをもって、哀しくこころにひびきます。白く冷たい霧の中でひびく哀切な歌のような趣の短編集でした。基本的には妖精物語の部類にはいるのだと思いますが、そうした読み物につきものであるのにもかかわらずいつも異物のように感じられるキリスト教の教えがここでは、ものがたりの芯にしっくりとからみあっていて、それほど鼻につきません。じっくりと時間をかけて醸成されてきた、頭で考えるのではなく心で感じとる個人的な信仰のありかたを描いているからかなあと思いました。

 それに、物語もさることながら翻訳の日本語がすばらしく、みがきぬかれた言葉を味わいながらじっくりと堪能させていただきました。
 以前出ていた沖積舎版を読んだことがあるのですが、そのときに感じた衝撃はまったく色褪せてはいませんでした。今回は年を重ねたぶんより深いところまで読みとろうと努力してみましたが……さて、どうだったでしょう(汗。とにかくものすごく読んでいて嬉しい本でした。嬉しいって、なにかへんな表現ですが、でも毎晩ページを眺めるだけで嬉しかったのです。だから読む方がなかなか進まなかったわけなのですが。

 著者であるフィオナ・マクラウドはウィリアム・シャープというじつは男性のスコットランド人で、アイルランドで文芸復興運動が起きていたのと同じ時代の人物である、ということは本書の解題の中にふれられていますが、その解題の内容からもあらたにつけられた解説をみても、この本の主役はマクラウドではなく実質的に翻訳者の松村みね子であるような気がします。それほどにここにあらわされた訳には力があってうつくしく、原文は読めないので比較のしようがないのですが、もしかしたら物語の内容に添う以上の働きをしているのではないかとすら感じられました。これほど格調高い訳文を得たケルト伝説集はほかにないのではと思います。こんなひとが昔の日本におられたのだなあと思うとひたすら感慨深いです。最近再評価されているようで著書が復刊されたりしている模様です。

 日本人の心に響く言葉で外国の神話伝説を読めるなんてほんとうに希有なことなので、そういったものがお好きな方はとりあえず手に取ってみてください、といいたいです。お薦めです。

 ひとつひとつの作品にはまったく触れられなかったので、ここに目次をうつしておきます。

 2006.4.2(日)

 谷瑞恵さまよう愛の果て 失われた王国と神々の千一夜物語(集英社コバルト文庫.2006.251p.476円+税)[Amazon][bk-1]読了。ものがたりと現実が交差する千夜一夜風無国籍ファンタジーロマンス。

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 アイーシャは継父の決めた結婚を厭い、輿入れの一行から逃げ出した。彼女の望みは自由になること、そして盗賊に殺された実父の仇を討つことだ。生活するために再婚した母を責める気はなかったが、アイーシャの暮らしは辛いものだった。継父が勝ち気な彼女を嫌ってことあるごとに辛く当たったからだ。このままいいなりに結婚すれば、牢獄にいるような生活が一生続いてしまうに違いない。しかし小娘ひとりに世間は厳しかった。持ち出した金は盗まれ装身具も売り尽くし、残されたのは父の形見の婚礼衣装と短剣だけ。市場で行く当てもなくぼんやりしていたアイーシャは、極彩色の鸚鵡を連れたウード弾きの若者を見つけた。黄金の国のふしぎな物語をうたう若者に、アイーシャは自分と組まないかともちかける。

 運命から逃れようともがく少女が出会ったのは、謎めいたウード弾きの若者。少女と若者はたがいに追われる身だった。砂漠での逃避行で近づいていくおたがいの距離。容赦なく照りつける現実に夜ごと訪れる黄金の国の夢物語。緊迫感の中で夢と現の境界がうすれてゆくような恋物語でした。

 描写があっさりしているので少女向けでとおるけれど、もっと雰囲気たっぷりに描いたら死と愛が隣り合わせの官能的で破滅的なお話になったのではと思う。初期のタニス・リーをうんと庶民的に甘めにしてさらに薄味にしたような感じでしょうか。運命に翻弄される恋人たちのおはなし、といえばまさにそうなんだろうなー。そういうロマンスがお好きな乙女な方にお薦めです。

 以下は大半の方には意味のない繰り言。

 今回、中東もしくはアラブ風の世界描写に、私はかなり疲労しました。いままで私が勝手に蓄積してきたそれらのもろもろをやたらと刺激するのですよ、この話。冒頭からやたらとアラビア語風のルビがついてるので「ん?」と思ったのですが、どこまで本気でめざしているのかなかなか見極められなくて、ずーっとああでもないこうでもないと手探りしながら読むことになり、時々出てくる固有名詞に大迷走。おまけに、黄金の国の物語はどこをどう押してもイスラームではないため、本編との距離をはかるためにこれにもさまざまな推理をめぐらせながら、「こんなことを考える必要はきっとないのよー、自分の馬鹿ー」と泣いていた。でもやめられないんです。うっうっうっ。

 最終的に達した結論は、やっぱこれは「なんちゃってもの」で千夜一夜の雰囲気だけがほしかったのだなというあたりでした。いや、いいのですよそれがダメとか悪いとか言っているわけではありません。

 ただ、できれば冒頭にそのことが明確にわかるような目印が欲しかったかなと。そして、黄金の国と現実が霊的に繋がっていてもおかしくないと思わせる、双方を内包する大きな枠があることを示しておいてくれるとなおよかったと思う。そしたら、ラストで発見されるアルコトにたいして、私もこんなに愕然としたりしなかったはず。このときの衝撃は『デル○ィニア戦記』と『スカー○ット・ウィザード』が同じ世界の話だと判明したときのものとすこし似ていましたが、でもこっちのほうが私にとってはショックでしたね。それでようやく、この話の世界像が納得できたわけなんだけれども、こんなところでわかっても嬉しくないというか。だから、ファンタジーとしても……私的にはちょっと微妙だなと。雰囲気的にはね、かなり好きなんですが。邪念が相当入ってしまったので素直に楽しめなかったです。

 それから、ウード弾きの名前サンジャルにずーっと覚えがあるような気がしてひっかかっていたんですが、『夜想』のヒロインがアンジェルだったんですね。音が似てるだけで、意味はないのかもしれないけど。


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