2006年5月のdiary
■2006.5.6 /『妖怪・妖精譚 小泉八雲コレクション』
■2006.5.8 /『トリニティ・ブラッド Reborn on the Mars II 熱砂の天使』/『ヴェロニカの嵐 クラッシュ・ブレイズ』
■2006.5.14 /『ゼロヨンイチナナ』
■2006.5.18 /『トリニティ・ブラッド Reborn on the Mars III 夜の女皇』/『空ノ鐘の響く惑星(ほし)で 9』
■2006.5.20 /『ナイト・ウォッチ』
■2006.5.23 /『オペラ・カンタンテ 静寂の歌い手』
■2006.5.25 /『戦う司書と恋する爆弾』
■2006.5.28 /『トリニティ・ブラッド Rage Against the Moons III ノウ・フェイス』/『英国妖異譚』
■2006.5.31 /『闇の守り手 1 ナイトランナーI』
リン・フルエリン(浜名那奈訳)『闇の守り手 1 ナイトランナーI』(中央公論新社C★NOVELS Fantasia.2005.230p.950円+税
Lynn Flewelling "LUCK IN THE SHADOWS",1996)[Amazon][bk-1]読了。異世界ファンタジーシリーズ第一巻。
狩人の父親と暮らしていた少年アレクは、父の死を迎えた冬に無実の罪でとらえられ、拷問を受けていた。領主のアセンガイ卿はかれを南の奴隷商人に売るつもりであるらしい。疲れ果て無力感にとらえられたアレクに、声をかけてきたのはあらたに捕虜となった吟遊詩人だった。吟遊詩人は謎めいた行動をつづけ、その夜のうちに牢からの脱出を成功させた。ともなわれて自由の身となったアレクは、吟遊詩人に本名はサージルであると教えられ、道案内として雇われることになった。移動の合間に、サージルは世界の神話や南方の王家の話を魔法の話を語った。吟遊詩人はスカラからきた密偵だと気づいたアレクに、サージルが持ちかけたのは弟子入りの話だった。
独自の神話体系と伝説を背後に持つ、異世界ファンタジー。
まずなによりも、こまやかに描写されるヨーロッパ中世風の物語世界に大変に雰囲気があります。伝説や神話の影の色濃い、霧のように世界にただよう魔法の気配。作中に頻繁に歌が出てくるのもなんとなく嬉しい。荒々しいのではなく、繊細でたおやかな、ケルト神話のような雰囲気の物語世界です。
お話自体は謎めいた華麗なキャラクターとその背後関係が徐々に明かされていったり、かすかに同性愛の雰囲気が漂ったりと、どことなく少女マンガ風ですね。というか、女性向け? 初期のハヤカワ文庫FTみたいな感じです。
けれど、逃避行の始まったとたんに神話の説明が入る、それもあんまり親切ではないと私には感じられるものが、ということで少し気分がくじけました。雰囲気にひっぱられるようにしてなんとか読みましたが、あんまり頭に入ってこなかったです。あとで関係のある事柄が出てきたらどうしたらいいんだと、少し恨めしく思ったり。
冒頭に神話を置くのはファンタジーの構成的には正しいと思うんですが、私は冒頭神話をちゃんと読んだためしがないんですよね(汗。書いているひとには申し訳ないけど、冒頭の神話って後で参照するものだと思っていたりする。ほんとうにその神話がその世界に息づいているのなら、取り立てて読まなくてもいつのまにかわかってくるものだとも思うので。
だから、冒頭に神話を入れずに会話の中に持ってきたということは、とばさずに必ず読んでもらうため、なのだと私は受けとめるわけですが、それでこんなに面倒に感じるのでは先が思いやられるなあ。
なんだかこの話、私と相性が悪いのかしら。三分冊の一冊目だから話の全容がわからないのはともかく、なにを目的に読めばいいのかわからないような気分がずっと消えないのはなぜなのだろう。雰囲気はすごーく好きなんですが。それに、サージルの職業やかれの身につけている技術がつぎつぎに明らかになるところや、アレクの身支度をととのえる場面など、細かい部分も楽しかったんですけどね。ぐいと惹きつけられるようなところがちょっと少ない感じなのかな。
それと最後のほうのあるシーンにはかなり違和感がありました。とても印象的でのちのち影響を与える重要なシーンみたいですが、状況を考えるとあんたこんなときにそんなことしている場合なのかと。思ってしまってはいけないのだろうか(笑。
吉田直『トリニティ・ブラッド Rage Against the Moons III ノウ・フェイス』(角川スニーカー文庫.2002.286p.514円+税)[Amazon][bk-1]読了。遠未来の地球で吸血鬼と人間の戦いを描く、ゴシックなアクション。連作短編「RAM」シリーズの三冊目。『トリニティ・ブラッド Rage Against the Moons II サイレント・ノイズ』のつづき。
派遣執行官“ノーフェイス”がらみで新教皇庁との闘争を描く連作短編三つと、“ソードダンサー”がらみの外伝を一編収録。
つぎつぎにあらわれる派遣執行官。ひとりひとりをかなり忘れている状況ですが、それでもとりあえずお話は楽しめます。真面目な信仰者が理想を追求し始めると思わぬところで道を踏み外す、というお話でした。有能な姉にスポイルされかけている少年教皇に、はじめてスポットが当たった。
“ガンスリンガー”が出てきたので他は不問に付します、という感想でいいのであろうか(苦笑。
外伝は終りそうで終わらないですね。なんだかハードボイルドっぽくなってきたような。
篠原美季『英国妖異譚』(講談社X文庫ホワイトハート.2001.268p.550円+税)[Amazon][bk-1]読了。第八回ホワイトハート大賞優秀賞受賞作。現代イギリスの全寮制学校を舞台に少年たちが活躍する幻想怪奇小説。シリーズの第一作。
セント・ラファエロはイングランド西南部の湖畔にあるパブリックスクール(全寮制男子校)。月の明るい夜、第三学年の寮生たちが百物語にならっておこなった怪談大会で、土地の湖にまつわる忌まわしい伝説が語られた。領主の娘が恋をした青年が湖の妖精の歌声の虜となり、屍と化して湖畔に浮かんだ。かれの魂はとらわれたまま、肉体を求めて永遠にさまよいつづけているという。その話のさなか、空気が冷たく変化した。日本生まれで妖精を見る視力を持つユーリは、耳元で囁く声を聞いた。呪われた名を呼んではいけない。だが、すでになにかは始まっていた。その夜、校内の霊廟でひとりの生徒が姿を消し、ともにいたもうひとりは悪霊に取り憑かれてしまったのだ。
長く続いているシリーズですが、今回初めて読みました。うんちくミステリ風味の幻想怪奇小説、少年バージョンといった印象が残りました。
全寮制男子校が舞台でレーベルがホワイトハートなので、ボーイズラブ風味がまじるの仕方ないかなと。嫌と感じるひとはいるかもしれませんが、私はそれほど気になりませんでした。主役の霊感少年とリーダー格の少年の雰囲気は、あっさりとした少女小説のヒロインとヒーローくらいの距離感かな。
とりあえずお話はそれなりに楽しく読みました。私としてはもうすこし恐怖と幻想のシーンに独特の雰囲気があるといいなあと、思いましたが。文章があっさりめというか癖のない感じで説明は過不足ないのですけど、ここが好きといえるほど入れ込めるシーンがなかったのがちょっと残念。余韻ももうすこし欲しいかな。話のポイントである妖精譚そのものは興味深かったです。もう少し読んでみようかなと思いました。
ところで、全寮制男子校というと条件反射で某名作少女マンガを思い出してしまう私です。文学者が古典を血肉とするならば、私が血肉としてきたのはマンガなのだなと思います。
山形石雄『戦う司書と恋する爆弾』(集英社スーパーダッシュ文庫.2005.290p.571円+税)[Amazon][bk-1]読了。すべての死者が『本』となる世界を舞台に、人間爆弾にされた青年の恋と武装司書と異端の教団の戦いを描く、異世界の物語。第四回スーパーダッシュ小説新人賞大賞受賞のデビュー作。
死とともにすべての人間が『本』となる世界。耽溺教団により強力な洗脳を受けて人間爆弾となった青年、コリオ=トニス。かれはある命令を果たすためにトアット鉱山町に滞在していた。ハミュッツ=メセタを殺せ、というのがその命令だ。ハミュッツ=メセタとは、『本』となった人間が収められる神立バントーラ図書館の館長代行であり、最強の武装司書である。おなじ使命を帯びたふたりの仲間のうち、ひとりは任務の遂行中に爆発して死亡し、ひとりはコリオを置いて行方をくらました。ひとりになってしまったコリオは、闇の本屋から押しつけられた『本』のかけらに触れ、斑の髪をした美しい少女の凄惨な物語を読んでしまった。気がつくと猫色の姫様と名づけた彼女のことしか考えられない。かれは恋をしてしまったのだ。
本だの図書館だの司書だのという単語が出てくるだけで興味が倍増しなのです(笑。
想像とはちょっと違ったのは、ここにでてくる『本』はページを繰って読む本ではないということ。人の一生の記憶を本人視点で収めたデータメディアみたいなものかなと思われます。だれでもいつでも触れるだけで物語として再生されるらしい。「だれでもいつでも」ってところが『本』なのかもしれないです。ふと思ったのですが、言葉はどうなのだろう。自動翻訳してくれるのでしょうか。
それはさておき。
大変楽しく読みました。必要最小限の情報を提示して最大限の効果を上げている、コンパクトながら読み応えある個性的なお話でした。
最初そっけないと感じたほど簡潔で淡々とした文章が、そのうち快感になりました。きちんと閉じられた均一な線だけで描かれた、余白の多い絵みたいな世界。たとえがわかりにくいですが。読みながらなにやら開放感のようなものを感じたのは、余計な物がないためかもしれません。狂信的な宗教組織が出てきたり、爆弾にされたり、テロがあったりとかなり物騒な話で、しかも主人公は抑圧されているのに、雰囲気的にはあまり暗くなくてむしろ明るい印象が残りました。つまり、曖昧な魔法などの気配が残る余地がないような感じというのかな。神話体系など物語世界の設定もふくめて、ものごとがすべて整然としている感じ、世界の風通しがとてもよいのです。なんとなくファンタジーというよりSFの感触でした。
キャラクター小説としてはハミュッツ=メセタの超人ぶりが凄かった。シリーズ化しているようなので、だんだん他の人たちの存在感も増していくかもしれません。面白かった。つづきも読もうと思います。
ただ、ひとつ気になるのは、この世界にはふつうの本は存在しないのだろうかってことですね(笑。
栗原ちひろ『オペラ・カンタンテ 静寂の歌い手』(角川ビーンズ文庫.2006.255p.476円+税)[Amazon][bk-1]読了。手際のよい語り口で病弱な剣士兼薬師と能天気な詩人、無口な元暗殺者の少女の活躍を描く、異世界ファンタジー。シリーズの二冊目。『オペラ・エテルニタ 世界は永遠を歌う』のつづき。
シリーズ物につき既刊のネタバレを含みます。
薬師の青年カナギ・サンスイは、呪われた故郷のために不死を求めて旅をしているお尋ね者。ある事件の後に詩人ソラ、新米魔導師で元暗殺者の少女ミリアンと道連れになったかれは、裏町として名高い山岳都市ザヴォーツの密売人の元で旅の資金を稼いでいた。ある日、街で出くわした若い女性に助けてくれと頼まれて、カナギはそれをすげなく断る。当然と思いつつ、後味の悪い出来事だ。その後、「不死の法を得た闇魔導師」の情報を得た三人は、闇魔導師カエキリアの領地へとむかうことになる。
詩人さん、はったりで大活躍の巻。
やはりこのシリーズ、私にとっては詩人さんの存在がもっとも惹きつけられる要素である模様。かれの言動をひろいつつ、この世界の仕組みや現状を読み解いてゆくのが面白いのです。
キャラクター小説としてはいまだになじめないところがあり、文章はおそらく生理的にリズムが違うのだろうと思いますが、私の思考回路をすんなりととおってくれないところが多々あって、理解するのに時間がかかるのが難ですが。今回はあるシーンから急に収斂されたように波長が合いまして、そこからうわーっと話の中に取り込まれてしまったような心地になりました。
うわ、面白いよー、というのがそこからの感想。
この世界がどのように成り立ち動いているのかを知りたい、という気持ちはさらに大きくなった模様です。つづきをお待ちしています。
セルゲイ・ルキヤネンコ(法木綾子訳)『ナイト・ウォッチ』(バジリコ株式会社.2005.550p.1900円+税
Sergey Lukyanenko "NIGHT WATCH",1998)[Amazon][bk-1]読了。現代モスクワを舞台に闇と光の勢力がだましあう抗争ファンタジー。
ひとならぬ能力をそなえた異人たちは、はるかな昔から、光と闇の勢力に別れて争ってきた。だが第二次世界大戦後のあるとき、ふたつの陣営は休戦協定を結んだ。それからかれらはたがいの勢力バランスを保つため、それぞれに監視団をつくって監視し合うようになった。両者の危うい均衡の元に表向きの平穏が続く日々。ひとりの少年が“誘い”の声にひきよせられていまにもヴァンパイアの餌食になろうとしていた。そのころ、光の監視団ナイト・パトロール隊に所属する青年アントン・ゴロジェツキイは、巨大な“黒いじょうご”を負った娘を発見する。とてつもない災厄を招き寄せる呪いの“じょうご”を発生させた闇の魔術師を突き止めるため、ナイト・パトロール隊は活動を開始した。
ロシア産の現代ファンタジーを読むのは初めてですが、ロシア文学の暗く重たいイメージとはまったくちがう、描写のすくなくて展開のはやい、シャープな小説でした。面白かったです。
光と闇が、それぞれにどれだけ有利な状況を獲得するかを争う過程を、一個の駒としてなにもわからないまま動かされる下っ端アントンくんの視点で描くお話。均衡を保つことが第一の命題なので、善と悪、正義と不正義という単純な二項対立の話ではないところがポイントです。
それと、悪魔とか信仰とかが出てくる割に天使が出てこず救世主も待たれてなくて、キリスト教のにおいがしない。神様の気配が全然見えないんですよね。これは翻訳物としてはかなり不思議な感じでした。ロシア人の宗教感覚ってどんなものなのだろう。ソ連時代に薄められたのかなあ。
というわけで、まるで日本のライトノベルを読んでいるような気分だったのですが、じっさいイラストをつけてもすこしキャラサービスがあったらライトノベルでも行けるんじゃないかと思いましたが、だからなのかちょっと「ハイス○ール・オーラバスター」に似ているかなあとか思ってしまった。こちらのシリーズは最近読んでいないのであまり断言はできませんが。そういえば虎なんかが出てくるあたりは平井和正の「狼○」シリーズみたいかも。
映画化されてロシアでは相当ヒットしたみたいですが、日本ではあまり当たらなかったのでしょうか。
話がおもいきり続いているのでつづきも出して欲しいなあとおもうのですが、出る気配がない模様です。ううむ。
吉田直『トリニティ・ブラッド Reborn on the Mars III 夜の女皇』(角川スニーカー文庫.2002.350p.571円+税)[Amazon][bk-1]読了。遠未来の地球で吸血鬼と人間の戦いを描く、ゴシックなアクションシリーズ。『トリニティ・ブラッド Reborn on the Mars II 熱砂の天使』のつづき。
シリーズ物につき、既刊のネタバレをふくみます。
教皇庁のアベル・ナイトロードとエステル・ブランシュは、ミラノ公により真人類帝国の皇帝へ密使として送り出された。船旅の後、帝都ビザンチウムに入ったふたりは、同行した帝国貴族イオン・フォルトゥナの屋敷で壮絶な殺戮現場を目の当たりにすることになる。駆けつけた禁軍兵団によりイオンは祖母暗殺の犯人の汚名を着せられ、三人は夜のビザンチウムを逃走することになる。
ついに帝国の内部が明らかになる長編シリーズROMの三冊目。この世界の大枠設定がだいぶ明らかになってきて、帝国の女皇の正体にふううんなるほどーと思った巻。やはりSFだなとあらためて思いました、このシリーズ。ストーリー的にはもしかして佳境に入ったのかしら。かなり面白くなってきた。しかし、お目当ての誰それさんが今回まったく出番なし。ワタクシ的にはちょっとがっかりの一冊でした(苦笑。
それとはべつに、今回は帝国の文化基盤がどこにあるのかでかなり混乱しました。固有名詞にくっついてくるルビがえらく多彩なんですよね。ビザンツ帝国とトルコ帝国の折衷型なのかなあ。でもアラブもあるようだしー。推理するのも楽しみといえばそうなんですが、あまりにも多いので私にはついてゆけない模様。というわけで途中からルビは無視して文化を推理するのもやめました。読むのがかなり楽になった(笑。
私がやたらと文化基盤に固執するのは、異世界ものに疑似異文化体験を求めているからなのかもしれないと思います。なのでできれば精神文化まで描いてほしいな、とか思っていたりする。
でも、そういうのはライトノベルに求められている要素とは両立させるのが難しいものなのだと、最近ようやくわかってきましたよ。なんてどんくさい読者なの(笑。
渡瀬草一郎『空ノ鐘の響く惑星(ほし)で 9』(メディアワークス電撃文庫.2005.333p.590円+税)[Amazon][bk-1]読了。『空ノ鐘の響く惑星(ほし)で 8』のつづき。
シリーズ物につき既刊のネタバレを含んでいます。
アルセイフはタートムの侵攻を退けた。ウィータ神殿の司教カシナートはジラーハへの帰路、立ち寄ったサンフェデルでの仮面をつけた奇妙な男の挑発的な訪問を受ける。ラトロアの技術力を背景に圧倒的な威圧をはなつ仮面の男メビウスは、カシナートの心に疑惑の種を植えつけてその場から姿を消した。いっぽう、ひとときの平穏を得たアルセイフの王宮では舞踏会が催されることになった。
前巻の怒濤の展開のあとでの小休止。この巻は事件と事件のインターバル的な展開となっています。登場人物それぞれの人となりをあらためて紹介しつつ、次への布石を打っているという感じでしょうか。影で主人公の出自が明らかになったりしてますが、やはりメインは舞踏会なのかなあ。もしかしてキャラクターの萌え度をアップさせようとしているのかなと想像してしまうような展開が相次ぎました。ふつうのライトノベルならこれが常態なのでしょうが、このシリーズ普段が禁欲的なのでこれにはちょっと違和感を覚えました。作者が自分で二次創作を書いてるような感じをうけてしまって、なにか本編ではないような気分というか。ひとつひとつのシーンを読めばそれなりに楽しいのですが。それともこれからはこういう雰囲気でいくのだろうか……。まあそれならそれでもかまわないけど。とりあえず、つづきに期待。
清水マリコ『ゼロヨンイチナナ』(メディアファクトリーMF文庫J.2005.263p.580円+税)[Amazon][bk-1]読了。現代日本を舞台にしたミステリ風味の幻想青春小説。『ゼロヨンイチロク』のつづき。
明智夜城はペンネームを名乗る小説家志望の高校一年生男子。同級生の岸本めぐみの母親が失踪した事件の後、めぐみと相川美緒とともに奇妙な事件を解決する「ゼロヨン事務所」を開設した。夏休みの初日に映画を見に行った三人は、ちょっとしたことから二手に別れて行動することになる。ひとり残されたのは明智だったが、そのかれに気さくに話しかけてくる女の子がいた。年上で可愛い系のおねえさんとの語らいに、明智は制作中の小説のプロットに迷いを生じる。不思議とか、ミステリーとかじゃなく、恋愛ものでも、いいかもしれない。ところが夏野雪葉と名乗る彼女は自分は「ちょっと不思議」が好きなのだと告げ、明智に“三つの謎”をもちかけてきた。すべてを解き明かしたらその場で死ぬか、永遠のご褒美があたえられるという謎の話だった。
噂と嘘と伝説と女の子。日常と幻想の境界線上でつづられていく、高校生の不可思議な物語でした。ある意味ではひと夏の恋物語? にしてはホラーで死の影もちらつくのですが。
とはいうものの、閉塞感と不安感に満ちていた前作を思い描いているといささか拍子抜けします。主役の個性だけで話の雰囲気はこんなに変わるのだと、すこし感心してしまいました。夏の輝きが残るほどではないのですけど、この著者の話にしてはかなり雰囲気的に解放された明るい話だったと思います。
素材は前作と比べてもとくに明るいとは思えないのですが、明智君のキャラクターが妙に前向きなせいでしょうか。明智君の家庭環境もそれなりの薄暗さをそなえているのに、そのまま素直に沈んではいかないのです。虚勢かもしれないけれどかれ自身は当然のように前へと進もうとする。それが話を明るいほうへとむけているのかなと思います。それに今回は悪意の存在がすこし薄かったようにも思います。
というわけで読後感は爽やかでしたが、いつもの雰囲気を期待する部分もある私には、すこうし物足りない気持ちも残りました。読み手というのは欲張りなものですな。
吉田直『トリニティ・ブラッド Reborn on the Mars II 熱砂の天使』(角川スニーカー文庫.2001.318p.533円+税)[Amazon][bk-1]読了。遠未来の地球で吸血鬼と人間の戦いを描く、ゴシックなアクションシリーズ。『トリニティ・ブラッド Reborn on the Mars 嘆きの星』のつづき。
本が手元にないのであらすじはパスです。
しばらく遠ざかっていたシリーズ。とつぜんとある登場人物を読みたくなって予約して借りました。手元に届いたときにカバー絵に見覚えがあって、読んでいたらどうしよう、と思ったけど大丈夫だった。てことは一度借りたけど読まずに返していた、ということか。ううむ。最近借りた本の三分の二くらいはそのまま返却しているような。
お話は結構面白かったです。ちょっと仰々しい文章にもだいぶ抵抗が無くなってきた。舞台が地中海沿岸のアフリカというのもツボでした。ただ、長命種のぼうやの台詞が読みにくかった。視覚に訴える効果って、マンガにはいいけど小説には不向きだと私は思う。私は文章を記号ではなく音のつながりとして読みたい人間らしい。余計なもので流れが途切れるのが嫌なのです。それが一時的で例外的な効果ならまあいいかと思えるけど、継続してとなると……うっとおしいんですよね。
期待の人物はけっこう活躍してくれたので一応満足しました。つづきも読みます。というか、読みました。
茅田砂胡『ヴェロニカの嵐 クラッシュ・ブレイズ』(中央公論新社C★NOVELS Fantasia.2005.235p.900円+税)[Amazon][bk-1]読了。『スペシャリストの誇り クラッシュ・ブレイズ』のつづき。
本が手元にないのであらすじはパス。
図書館の書架にあったので借りてきました。今回は、金銀のふたりが、たくさんの足手まといとともに無人の地球型惑星でサバイバルをする、というお話。
いつものように、ふたりの自立心のつよさと超人ぶりが浮き彫りになる展開でした。
このシリーズ、つねに一定水準の面白さを保っていますが、基本的に主役級に変化がないのでなんとなく新鮮さに欠ける面があります。ジェイムズが活躍する場面を面白く感じるのはそのためかなと思う。こういう話は凡人がドラマの主役になったほうが楽しいんじゃないかな、超人のすごさを楽しむには、とふと考えてみたり。
小泉八雲(池田雅之編訳)『妖怪・妖精譚 小泉八雲コレクション』(ちくま文庫.2004.547p.1300円+税)[Amazon][bk-1]読了。小泉八雲の幻想的な再話文学を五十三編収録。
『さまよえる魂のうた』を読んだのでじゃあ次はこれねと借りてきた本。
アメリカ時代に発表された物から日本での晩年の作品まで、ハーンが世界各地の民話伝説を独自に語りなおした再話文学のアンソロジーです。題材はヨーロッパから南太平洋の島々から中国、そして日本のものと多岐にわたっています。
ほぼ年代順に編まれたもので、ハーンの作風の変遷もうかがい知ることができるのが興味深い。基本的に幻想文学なのはおんなじですが、若い頃は幻想を描くことそのものに喜びを見いだしているようで色彩も豊かなのに対して、しだいにとぎすまされたシンプルな文章で人間そのもの描くような作風になっていくんですね。
幻想文学として私は始めのころの華やかな描写がかなり好きなのですが(『カレワラ』に材をとったものとか)、ものがたりそのものとしては後年のもののほうが深みがあり、心に残るような気がしました。
日本に出自のある話は、あたりまえですがやはりなじみのある物が多かったです。あれほど怖かった「耳なし芳一」は、記憶にあるよりも文章がかなり淡々としていて意外な気がしました。
読んでいて私が面白いなあとおもったのは中国産のお話が多かったです。多分よく知らないからだと思いますが。これからは中国の幻想譚を探してみようかしらと思いました。
小泉八雲(池田雅之編訳)『さまよえる魂のうた 小泉八雲コレクション』(ちくま文庫.2004.495p.1300円+税)[Amazon][bk-1]読了。「ghostlyなるもの」を追い求めた小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)の文学的な背景を、自伝的なエッセイと大学での講義録によってあきらかにするアンソロジー。
ghostlyとは何か? それは古来「神」をさす言葉で、「神聖」「神秘」にして「宗教的なもの」のことであり、さらには、人間の内面や魂を表象する「霊的なもの」をも指している。
この本を借りてきたのは、書架で手に取ったときに妖精物語についての文章が目に入ったからでした。ところが何の気なしに読み始めた内容の興味深いこと、納得させられること、そして心に食い込んでくることに驚き。読んでいて「うわあ」という感嘆符が頭をめぐりつづけてました。とくに、八雲がこの道を選び取った理由が理解できる第一章。タイトルの“さまよえる魂”がいかなる孤独を抱えたものかということに呆然となりまして、ちょうどそういう精神状態だったのでしょうが、おもわず涙しそうになってしまいました。
第二章からは講義録です。イェーツの同時代人であった八雲が当時の日本人に語る文学に対する考えにはなかなか興味深いものがあります。とくに面白いと思ったのは文学の中の超自然的なものについてや妖精文学についての講義。つまりghostlyなるものに関する講義なのですが、これが私のファンタジーに対する感覚とものすごく似ているんですよね。ここは読みながらうーんなんてこったと思ったところです。
第三章は文学を志す人に向けた、なんというか人生の道しるべみたいな感じ。かれが相対していたのは明治時代の日本人の学生なんですが、例示される当時の欧米諸国の状況はいまの日本のことじゃないかと、一瞬錯覚するようなところもありました。第四章は特定の文学者に関する講義なので無知な私にはさすがに厳しかったですが、ロマン主義文学の香りのはしっこくらいは味わったかなと期待。
私にとってこれまで小泉八雲は『耳なし芳一』を書いたひとというだけの認識しかありませんでした。小学生の時に読んであまりの怖さにその後ほとんど近寄らずにすごしてきた小泉八雲が、ギリシアで生まれアイルランドで育ち、世界各地を放浪するうちについにたどり着いたのが日本だったということが、なにか嬉しいようなもの哀しいような、不思議な心地になりました。かれには当初日本が妖精の国に見えていたらしいのですが、愛する家族を得てもさいごまで魂はさまよっていたらしい。八雲の魂は、つねにここではないどこかに魅せられてしまう吟遊詩人のものだったのかもしれないと、読みながら感じた一冊でした。
というわけで世間的にはいまさらですが、私にとってはいまのこの自分で出会えてよかった本だったなと思います。たぶん一昔前に読んでもあまり心に響かなかったと思う。本には出会う時期というものがありますね。
以下に目次を記しておきます。
- 夢魔の感触
- 私の守護天使
- 偶像崇拝
- ゴシックの恐怖
- ひまわり
- 星たち
- 幽霊
- 永遠の憑きもの
- 西洋文学における女性像
- 至高の芸術について
- 赤裸の詩
- 文学と世論
- 文学における超自然的なるもの
- 詩歌の中の樹の精
- 妖精文学と迷信
- 生活と文学の関係
- 読書について
- 文章作法の心得
- シェイクスピア再発見
- イギリス最初の神秘家ブレイク
- 自然詩人ワーズワス
- コールリッジ、超自然の美学
- ロマン主義的なるものと文学的保守主義
- 日本文学の未来のために
- 小泉八雲の家庭生活 萩原朔太郎
- 解説 八雲文学の原風景とghostlyなるもの 池田雅之