ごく個人的な2000年ベスト
管理人が2000年に読んだ中から選んだお気に入りの本。
「2001年に読んだ」というだけで、出版されたのは大昔の本もあります。それに十冊でもないし。順番にもとくに意味はありません。
下の著者名をクリックすると、その項目についての雑文に飛びます。
- 久美沙織『ドラゴンファームのこどもたち 上下』
- フィリップ・プルマン「ライラの冒険」シリーズ
- ヴォンダ・N・マッキンタイア『太陽の王と月の妖獣 上下』
- 加門七海『死弦琴妖變』『呪の血脈』
- 恩田陸『象と耳鳴り』『月の裏側』『麦の海に沈む果実』
- 五代ゆう『〈骨牌使い〉の鏡』
- マーセデス・ラッキー『誓いのとき タルマ&ケスリー短編集』
- ネルソン・デミル『将軍の娘』
- O.R.メリング『歌う石』
- 須賀しのぶ「流血女神伝」シリーズ
- その他の印象に残った本
久美沙織『ドラゴンファームのこどもたち 上下』プランニングハウス
ドラゴンファーム三部作の最終巻。
牧場少年の物語。飼っているのがドラゴンでなければ、そういっても差し支えないくらい牧場生活が描き込まれている、生活密着ファンタジー。
それだけに竜は家畜あつかいで親しみはあれど威厳はあまりなし。それで、とくべつに目覚めた竜がいにしえの尊厳を取り戻して翔べるようになるあたりが、とくに感動的になるのですが。
歴史のつみかさなりと牧場の存亡と主役フュンフの成長物語と家族の和解と、とてもたくさんの要素の集大成といった感じのものがたり。
版元が倒産して手に入らなくなってしまったのが残念。
・追記
早川書房から文庫で再刊行されました。
フィリップ・プルマン「ライラの冒険」シリーズ『黄金の羅針盤』『神秘の短剣』新潮社
イギリスの児童向け冒険ファンタジー。
はじめのうち主役ライラの性格が鼻につくにもかかわらず、どんどん先を読みたくなるとてもおもしろい本。
すこし昔のイギリス(シャーロック・ホームズとかの)をモデルにした現実とは違うイギリスではじまった物語は、その舞台をどんどんひろげていき、神秘の短剣ではついに現実のアメリカや、さらに異質な別次元の世界まであらわれます。
こどもであるライラたちの視点はもとより、彼女の両親でありながら敵対しているふたりの大人の事情なども読み応えあり。
でもなによりもお気に入りなのは、北欧のヴァイキングを思わせる白熊の部族。その族長のイオレク・バーニソンであります。人間でないからこそ、よけいにその存在の荘厳さがきわだつのです。でもあんまり出番はないんだよねー。
三部作らしいですが、第三部はまだ出てません。
ヴォンダ・N・マッキンタイア(幹遙子訳)『太陽の王と月の妖獣 上下』ハヤカワ文庫FT
フランスに太陽王が燦然と輝いていた時代のベルサイユ宮殿が舞台の、海の獣を巡るかけひきの物語。
捕らえられた海の獣と心を通わせようとする利発な女(けなげ)と、王の腹心で身体に障害のある男(屈折)との恋愛ものでもあります。
宮廷生活がこまごまと描かれていて、華やかさの影にある苦労話なども楽しめます。
漠然としたことしか書けないのは細部を覚えてないからです。主役の名前も思い出せないなんて、ああ、いやだ。
加門七海『死弦琴妖變』富士見書房、『呪の血脈』角川春樹事務所
加門七海は青少年向けの文庫よりも一般向けのハードカバーの方がおもしろいと思います。たんに腕が上がってきてから書いたのが一般向けだったということなのかもしれないけど。今年は力作揃いでうれしかった。
二冊読んだうちどちらかと思いましたが、味わいがかなり違っていてどちちらも大変おもしろかったので選べず。
『死弦琴妖變』は、江戸時代を舞台にした伝奇アクションもの。江戸の猥雑な雰囲気とあいかわらずの博識がとけあって、絶妙。
『呪の血脈』は荘厳なイメージの頻出する民俗ホラー。とってもこわいけど、この手触りはファンタジーに通じるものがあると思う。
スケールが大きくて、なおかつ細部までゆきとどいた濃密なおはなし。
恩田陸『象と耳鳴り』祥伝社、『月の裏側』徳間書店、『麦の海に沈む果実』講談社
いったいどうしたのと思うくらいたくさん本を出してくれた2000年の恩田陸。
どれも粒ぞろいでひとつひとつ堪能したのですが、私はしいてあげれば『月の裏側』が一番気になったかなあ。行方不明のひとが戻ってくる間にどうなっているのか判明したときは、うえ〜と思いましたです。
どの話もイメージの取り扱い方がやさしいのが印象的でした。
五代ゆう『〈骨牌使い〉(フォーチュンテラー)の鏡』富士見書房
2000年は五代ゆうの本を六冊読みました。『はじまりの骨の物語』を読んでから数年。イラストが好みでないからと敬遠していた『機械じかけの神々』も、読まずにいたことを後悔させる本でしたが、『〈骨牌使い〉の鏡』は代表作といってもいいくらいの力作。読み応えも重さもずっしりでした。
『ヴァルキリープロファイル』は、まだ本屋でもお目にかかってません。図書館に入るといいのですが。
マーセデス・ラッキー(山口緑訳)『誓いのとき タルマ&ケスリー短編集』東京創元社創元推理文庫
生活感と幻想がほどよくブレンドされた異世界ファンタジー短編集。
主役はしっかりと地を踏みしめて生きていく、戦士と魔法使いの女ふたり。
『女神の誓い』『裁きの門』もあわせて読むとなお楽しい。
ヴァルデマールを舞台にした他作品も紹介されるとうれしいのに。
ネルソン・デミル(上田公子訳)『将軍の娘』文芸春秋
2000年に読んだ数少ない翻訳ミステリのなかでいちばんおもしろかった本。今年といいつつ、1994年に出た本なのが、時代に遅れた私の読書生活をものがたっているなあ。
以降、デミルのほかの本も一応視野には入れているのだが、厚みに気圧されていまだ手つかず。
O.R.メリング(井辻朱美訳)『歌う石』講談社
神話伝説の格調高さをもった正統派ファンタジー。
須賀しのぶ「流血女神伝」シリーズ 集英社コバルト文庫
『天翔けるバカ』も捨てがたいけど、スケールでこちらを選びました。
完結間近とおもわれる「キル・ゾーン」シリーズは、予約が込んでてなかなか読むことができない。
それで「流血女神伝」は自分で買うようになってしまいました。財布の中身と部屋の許容量をかんがみて、むやみに本を買わないよう節制しているのですが。
そのほかの印象に残った本 順不同
- 今野緒雪『マリア様がみてる いばらの森』(集英社コバルト文庫)
- 藤崎慎吾『クリスタルサイレンス』(朝日ソノラマ)
- とみなが貴和『EDGE』(講談社X文庫ホワイトハート)
- デイナ・スタベノウ『白銀の葬送』(ハヤカワミステリ文庫)
- 梨木香歩『りかさん』(偕成社)
- ジェイムズ・ロング『ファーニー』
- 真保裕一『ホワイトアウト』
- 松井千尋『犬が来ました〜ウェルカム・ミスター・エカリタン〜』
- 霜越かほる『双色の瞳 ヘルズガルド戦史』
- 茅田砂胡『桐原家の人々3 恋愛統計総論』
- 円山夢久『リングテイル 勝ち戦の君』
- 上橋菜穂子『夢の守り人』
- J.グレゴリイ・キイズ『神住む森の勇者 上』『神住む森の勇者 下』
- キャサリン・ロバーツ『ライアルと5つの魔法の歌』
- 佐藤賢一『王妃の離婚』
- ローズマリー・サトクリフ『ケルトの白馬』