2003年5月後半のdiary
■2003.5.21 /『マツの木の王子』
■2003.5.23 飲んだ方がよかったのか/
■2003.5.24 /『西の善き魔女 外伝3 真昼の星迷走』
■2003.5.28 とつぜん夏日/
■2003.5.29 /『閉じられた環 上』
■2003.5.30 /『12月のベロニカ』
図書館に行って読めなかった本を大量に返却。予約本がたくさん届いていて、「どうしよう、読めるのか?」と慌てたせいで、『閉じられた環 下』[Amazon]を借りるのを忘れました。おおばかもの…。
清水玲子『秘密 2』[Amazon][bk-1]を購入。このまま登場人物が固定されて、ずーっと異常殺人の話になるのかなあ…。すごくおもしろいんだけど…気持ち悪い。
貴子潤一郎『12月のベロニカ』(富士見ファンタジア文庫.2003.292p.560円+税)[Amazon][bk-1]読了。異世界ファンタジー。第十四回ファンタジア小説大賞、大賞受賞作。
女神ファウゼルが降臨するとき、巫女は眠りにつく。一生を依代として女神のための長い眠りについやす巫女は、極寒の一時期にのみ咲く白い花にたとえられてベロニカと呼ばれていた。幼なじみの少女が次代のベロニカ候補ときまったとき、私は彼女との約束を果たすべく旅に出た。眠りにつくベロニカのかたわらで常にその身を護りつづける、ベロニカの騎士となる――。一介の兵士から異例の出世を遂げた私は、次代のベロニカをルグナスまでエスコートするルグナス騎士団の“栄光の十三人”のなかに選ばれた。この十三人の中からベロニカの騎士は選ばれるのだ。十二月のはじめの日、当代のベロニカは死去する。われわれは次代のベロニカをルグナスへ招くため、彼女のいる聖地カウセージュへとおもむいた。
作者の名前は、「たかね・じゅんいちろう」と読むとのこと。
この作品の肝は構成力でしょう。ネタバレになるので多くは書けませんが、話は時系列の順には進みません。敵国とのベロニカの奪い合いから突然困難に陥った道行きの間、ベロニカの騎士をめざす男たちの私利私欲にかられた行動が、さまざまな疑惑や危険を生みだしていくありさまが、ていねいに描かれています。
かれらの行動原理に女神への崇拝の念はほとんどなく、だからファンタジーの気配はかなり薄い。女神は話のきっかけを作っただけのひとつの装置という感じです。ファンタジーとはいっても、人間のドラマのほうにウエイトが置かれている一編。
お話としてはけっこう面白かったですが、これだけどろどろした人間ドラマを描くのなら、もうすこし文章に深みが欲しい気が。レーベルからいってもくだけた台詞は許容範囲として許せるんですが、地の文までくずされると雰囲気が壊れます。登場人物の言動まで幼く見えてしまうのは損だと思う。
私にしては珍しいことに仕掛けが早々にわかってしまったので、気になる小石を拾いながら読むような感じになって、話に素直に没入できなくなりました。もったいない話だなあと思います。
ロバート・ゴダード(幸田敦子訳)『閉じられた環 上』(講談社文庫.1999.314p.648円+税
Robert Goddard "CLOSED CIRCLE",1993)[Amazon][bk-1]読了。1931年のイギリス、イタリアを舞台に歴史と人生の変転を描く「愛と裏切りの物語」。
1931年。アメリカからイギリスへと向かう豪華客船の船上で、ガイとマックスはちょっとした厭世気分にひたっていた。詐欺師の二人はアメリカで危ない橋を渡ってきたのだ。ガイは景気づけに船上の旅を楽しもうとし、そこで有名な投資家チャーンウッドの一人娘ダイアナと知り合う。彼女は絶世の美貌と父親の財産によってひきよせられるあまたの求愛者に取り囲まれていた。ガイとマックスは、以前おこなった結婚詐欺の再現を目論見、ダイアナに接近するが、ガイの予想に反してマックスはダイアナと本気の恋に落ちてしまう。
ミステリーの分野で紹介されていることの多い、ロバート・ゴダード。ミステリー・ロマンとか評されているようです。今回初めて読んだのですが、つぎからつぎへと怒濤のごとく展開する物語に翻弄されそう。金を目的に近づいたはずが心まで奪われてしまった相棒をもてあましつつ、自分もダイアナに惹かれているガイが、謎に包まれたチャーンウッドに取引を持ちかけられたところから、いつのまにか事件に巻き込まれて身動きのとれない状況に陥ってしまうところまで、息もつかせずといったふうに運ばれてしまいました。
ところで、この詐欺師の「嫌な予感がする」のにどうしても悪い状況に自分を追い込んでしまう優柔不断さ、どうにかならないものでしょうか。これでよく詐欺師をやってこられたものだ。
病院に装具を受け取りに行ったのだが、合わないところが見つかったのでやり直し。本日の会計は無し。こんなの初めてです。病院に行ってお金を払わなくていいなんて。どうせ来週払うんだけどさ。
突然晴れあがって、急激に気温が上がったので、だらだらと疲労。すこしも涼しさを感じられないアスファルトの上を歩いていて、すっかり気力を無くしたので、帰りにはどこにも寄らなかった。
往路で、清水玲子『秘密 1』[Amazon][bk-1]を買って、読みながら帰宅。久しぶりにマンガを読んで「おお」と思った。『秘密 2』[Amazon][bk-1]が29日に発売予定。もしかして、すぐ隣にあったのかも…?
ロバート・ゴダード『閉じられた環 上』[Amazon][bk-1]も、読んでる途中。
荻原規子『西の善き魔女 外伝3 真昼の星迷走』(中央公論新社C・NOVELS Fantasia.2003.228p.900円+税)[Amazon][bk-1]読了。ハードカバー版『西の善き魔女4』に収録されたものを新書版ノベルスとして再刊行したもの。
外伝というより、シリーズ締めくくりの一冊。こういうのはきちんと本編とつづけて出して欲しいです。記憶が薄れてから読むと、話がきちんと頭の中でまとまらない。登場人物の状況がいまいち思い出せなくて苦労しました。
この本を読むと、新天地を求めるに当たって愚行をくり返すまいとして考えたシステムが破綻しつつある、グラールという不自然な国の状況が客観的にどんなものであるかがわかるのですが、たしか本編ではずいぶん唐突に出てきた印象があります。始まりからしばらくは、どうみても異世界ファンタジーだったから、SF的な要素に違和感を覚えたのだったと思う。最初から入れると読者がついてこないと思ったのかもしれないけど。この巻はどうみてもSFです。読んでいて浮かんでくる映像が、ぜんぜんファンタジーじゃなくなってます。バードが再生するくだりとか。
グラールのシステムは昔読んだテッパーの『女の国の門』の、ソフトでいやらしいバージョン、という気がする。
バードとフィーリのシステムはともかく、バードの個性は楽しかったです(記憶の操作はいったいどうやって行っているのだろう?)。
全体的にエピソードが詰め込まれ気味で、あとがきにあるように「凝縮した」話でした。
このシリーズ、おもしろいんだか、おもしろくないんだか私にはよくわからない。最後まで読んだのだから、魅力はあるのですが、なにか、微妙に外されている気がするんですよね。釈然としないというか。全部通して読んだら、また印象が変わるのでしょうか。
毎日安定剤を飲むのも不安なので一回飲むのをやめてみたら、見事に寝つかれずに超寝不足状態。そのまま外出して、繁華街へ行き本屋で本を買って、映画館で映画(『TAXI 3』馬鹿馬鹿しくて面白かった)を見、帰宅したら妹がコブ二つつきでやってきて、横浜×読売戦はめちゃくちゃな展開で、わたしはもう、ダメです。といっているそばから今回の不眠原因第一と推測されるものが落ちました。
どうしていつもすべてがいちどきにやってくるのだろう…ああ、疲れた。
以下を購入。
キャロル=ジェイムズ(猪熊葉子訳)『マツの木の王子』(フェリシモ.1999.168p.1238円+税
Carol Filby(Carol James) "THE PINE PRINCE AND THE SILVER BIRCH",1964)[Amazon][bk-1]読了。イギリス女性作家の童話。
マツの木の王国に場違いに生えてきたシラカバの少女。身の程知らずと攻撃されるシラカバの少女は、マツの木たちに呼ばれたきこりによって切り倒された。マツの木の王子は、恋するシラカバの少女になされた仕打ちにショックで倒れてしまった。マツの木の王国から運び出されたマツの木の王子とシラカバの少女は、おたがいを思い合いながらさまざまな経験をすることになる。
1960年代に出て、絶版になっていた本を復刊したもの。貼りつけられた帯(図書館の本を借りたので)に、赤木かん子さんの「本の探偵」で二番目に多く尋ねられた本、と書いてあります。
読んでみてなるほど、と思いました。なんだか透明でやわらかくてやさしい感じのお話なんですよね。冒頭を読むとどんな恐ろしい運命が待ち受けているのかと想像してしまうんですが、そんなに苛酷なことは起こらないし。ラストも美しくて、なんの心残りもない印象で。
ただ、今現在私はひねくれた精神状態にあるので、シラカバの少女がことあるごとにうだうだと取り越し苦労をするのが癇に障りました。それをまた、マツの木の王子が辛抱強くなだめるんですよね。ここで波乱が起きたら、すっきりした展開にはならないとは思うんだけど、たまには喧嘩とかしてもいいじゃないか、とか。
素直なこころで、純粋に物語を楽しもうと思えるときに読んだ方が本も自分もしあわせでしょう。
『発掘あるある大事典』でやっていた、うつほどではないが、ほっとくとうつになるかもしれない「軽うつ」の八個の自己チェック項目のうち、六つも当てはまってしまったんですが。
しかも、症状は二週間どころか十年以上つづいていたりする…。最近、寝るのに薬に頼ってるしなあ。あー、だけど今の状態はPMSも入ってるか〜。不便ですな女性というのは。
自覚したところで、毎日おんなじ生活を送っているストレスを減らそうと、ちょっとだけ新しいことをしてみました。そして憂鬱時のためのCD、嶋野百恵を聞く。一緒に歌うとなおよい。
ドディー・スミス(石田英子訳)『カサンドラの城』(朔北社.2003.558p.2300円+税
Dodie Smith "I CAPTURE THE CASTLE",1976)[Amazon][bk-1]読了。ディズニー映画『101』の原作者の描く、イギリスを舞台にしたロマンティック・コメディー。
カサンドラ・モートメインは十七才。姉と弟、独創的な作風で有名になった作家の父親と、元モデルの二度目の母ともに、四十年契約で借りた古いゴッドセンド城に住んでいる。一家はひどく貧しい。父親がまったく創作意欲を失って、毎日探偵小説を読んでばかりいるからだ。家具などの売れるものはすべて売り払い、手入れも満足にできない城はぼろぼろだ。使用人のスティーブンには給料も支払っていない。姉のローズは貧乏生活からの脱出の手段として結婚を夢見ているが、現実問題として、一家の周りに若い男性の姿はない。ところがある日、城の持ち主の住んでいたコートニーのお屋敷に、アメリカから相続人がやってきた。サイモンとニールのふたりの若い兄弟の出現に、ローズは目の色を変える。そしてカサンドラの生活も劇的に変化してゆくのだった。
この本、『赤毛のアン』シリーズを楽しんでいるときに読むともっと面白かったんじゃないかと思います。
十七才の女の子が速記で記したという体裁の日記風の文章で描かれているのは、美しいイギリスの田舎の風景と、貧乏に損なわれない若々しい精神。恋に恋をしている少女が、初めての恋に出会い、人を傷つける痛みを経験して人間的に成長していく姿を、上品に(幾分古風に)つづっています。
モートメイン一家の住んでいるサクソン時代に築かれたという城が話に大きなウエイトを占めていて、カサンドラの心のよりどころとなっています。この辺は、例の場所ファンタジーに通じるところ有りですね。
モートメイン家はどうやら無宗教みたいなんですが、カサンドラが苦しい恋に耐えかねて教会を訪れるシーンが印象深かった。
それから、一家の大黒柱であることを半ば放棄している父親の存在。このエキセントリックでつかみどころのない人物のおかげで、話にすこし普通でないところが加わって、いい刺激になっていると思います。すくなくとも私は、カサンドラが弟のトーマスとともに、父親にもう一度原稿を書かせようとして暴挙に出るくだりが一番楽しかったです。